白い嘘と黒い真実


「……うう、気持ちわるい」

その結果、見事自爆した私は胃から込み上がってくる不快感を何とか抑えながら、揺れるタクシーでじっと耐え続ける。

「だから言ったでしょ!あんたいい加減に学習しなさいっ!」

そんな苦しむ私にはお構いなしと。労わるような言動は何一つなく、家に帰るまでの道中、紗耶は耳が痛くなるような説教を容赦なく私に浴びせてきた。
せいぜい心配してくれる人といえば、先程からバックミラー越しでちらちらと私に目を向けてくるタクシーの運転手さんで、きっといつ吐かれるのかと冷や冷やしながらハンドルを握っているのだと思う。

私もどんなに気持ち悪くても人前では絶対に吐きたくないので、窓を開けて夜風にあたっていると少しだけ気持ちが楽になっていく気がした。

お店の滞在時間はそこまで長くはなかったのに、飲むペースが早過ぎたせいで、開始から二時間も経たないうちに私は意識が朦朧とする程酔っ払ってしまい、こうして今に至る。
実はこんなケースは過去に何度かあり、その度に毎度紗耶に怒られていたような気がするけど、全くもって学習しないからタチが悪いと我ながら思う。


「ほら、着いたよ。降りられる?」

そうこうしていると、あっという間に自宅へと到着し、紗耶は料金を払ってから私の腕を軽く引っ張ってきた。

「うーん、多分……」

相変わらず頭の中は朦朧としていて、視界がぐるぐると周り続ける中、何とかタクシーから降りてみたものの、足に力が入らずその場にしゃがみ込んでしまう。

「あー、もう本当にいい加減して欲しいわ。すみません、ちょっとこの子運ぶの手伝ってもらっていいですか?」

それから、完全に泥酔した私に対し、紗耶は思いっきり呆れた溜息を吐くと、一人じゃどうにも出来ないことを悟り、タクシーの運転手に助けを求めた時だった。


「大丈夫ですか?」

背後から知った声が聞こえ、私と紗耶は同時に振り返ると、そこにはいつもの冷めた目でこちらを見てくる澤村さんの姿があった。

「隣人なので俺が部屋まで運びます。とりあえず、セクハラで訴えられても困るのであなたも一緒に付いてきてください」

そして、私達の返答を待たず澤村さんは地面に膝を付くと、座り込む私の背中に手を回し、手慣れた様子で私の体を掬い上げる。

まかさのお姫様抱っこをされるという予想外の展開に、正常な状態であればパニックに陥っていたけど、生憎お酒の力で思考は全く働いていないので、私は一点を見ながら静かに運ばれていく。
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