白い嘘と黒い真実
第3話.信じること
………うーん。頭痛い。
完全に二日酔いだ。紗耶の忠告を無視しちゃったから、当たり前か。
これじゃあ、澤村さんと状況一緒じゃん。
全然人のこと言えない……。
………。
…………って、澤村さん!?
カーテンの隙間から朝日が差し込み、夢から覚めて思考が徐々に動き始める中、まるで金槌にでも殴られたような鋭い頭痛を感じながら昨日のことを回想していると、私はそこでようやく犯してしまった自分の失態に気付いて勢い良く体を起こす。
私、昨日澤村さんにとんでもないことを!?
しかも、勢い余って物凄く余計なこと喋ってたよね!?
悲しいかな。あれだけ酔っていたくせに記憶だけはしっかりと残っているので、私は蘇る当時の出来事にみるみる顔が青ざめてきた。
これが完全に覚えていなければどんなに幸せだったことか。変なところで発達している自分の記憶力をこんなに恨めしいと思ったことはない。
ああっ!どうしようっ!
私、澤村さんの首にあんなにしがみ付くなんて、セクハラはどっちよっ!
しかも離れたくないなんて、いくら人肌恋しいからって、いい歳こいて赤の他人にそんなことを言ってしまうとはっ!
てか、盗み聞きしてたのも思いっきりバラしちゃったし、過去の話も全部しちゃったし……。
もう、今直ぐにこの窓から飛び降りたいっ!!!
なんて、危うく鍵を外して身を乗り出すところまでいきそうになったけど、物凄い蔑んだ目を向けられながら澤村さんに検死される光景が頭の中に浮かび、そこで何とか思いとどまった。
とにかく謝りに行こう。今日は祝日だし、もしかしたら彼も休みかもしれない。
そう思った途端居ても立ってもいられなくなった私は、ある程度身だしなみを整えてから、まだ朝の七時過ぎという、休日では超いい迷惑な時間帯に、構わず昨日の格好のまま玄関を飛び出した。
澤村さんの部屋の前まで来ると、とりあえず呼吸を落ち着かせてインターホンを押すも反応がなく、二回目のインターホンを押しても一向に応答がない。
やっぱり、まだ寝てるよね……。
澤村さん帰りが遅かったし、また時間を置いてから出直そう。それでダメなら謝罪の手紙を入れておこう。
こうして、ようやく冷静になり始めてきた私は踵を返して部屋に戻ろうとした時、突然鍵が開く音が聞こえ、思いっきり肩を震わせて部屋の方を振り返る。
それから程なくして扉が開き、中から黒いスウェット姿で少し寝癖が立っている澤村さんがゆっくり出てきた。
「…………こんな朝早くに何ですか?」
今さっき起きたばかり……というか、私がきっと叩き起こしたのだろう。眠たげな目を擦りながら、とても不機嫌そうな面持ちで最もなことを言われてしまい、そこから更なる罪悪感が湧いてくる。
しかし、普段スーツ姿しか見たことないので、初めて見る澤村さんの無防備な姿に不覚にも胸がときめいてしまった。
「あ、あの、昨日は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした!今度改めてお詫びの品をお持ち致しますので!」
けど、そんな悠長なことを考えている場合ではなく、私は即座に頭を下げて深く深くお詫びする。
出来ることならこの場で土下座して、地面に頭を擦り付けたいくらいだけど、そうすると逆に迷惑がかかりそうなのでそこは何とか堪える。
「いえ、結構です。昨日栄養剤を頂いたのでそれでチャラということで。それに泥酔者の保護は日常茶飯事なので気にしないで下さい」
確かに。
……と、無表情でさらりと言った彼の最後の一言にとても納得してしまった私は、そこら辺の酔っ払いと同じ扱いをされているのにも気付かず、一人頷く。