白い嘘と黒い真実
出掛けるといっても、引越しのせいで資金はほぼ底をつきそうな為、大体こういう日は図書館で本を借りて近所のカフェでゆっくり読書をするのがお決まりのコース。
お金はお茶代ぐらいしかからず、それでいて、それなりの時間を過ごせるため何とも安がりで有効的な休日の過ごし方。


「うーん、今日もいい天気」

真っ青な空の下、私は四月の心地良い風に吹かれながら颯爽と自転車を漕ぐ。
田舎育ちなので、花粉症とは無縁の私は季節の中でこの時期が一番好きだ。
春は温かくて心地良いし、気持ちも上がってくるし、人肌も恋しくなってくる。

……なんて。つい最近彼氏を失ったばかりの今の私にしてみれば、ただの苦痛でしかない。
これまで散々痛い目にあってきたのに、今ではもう新しい恋人欲しさに欲求不満がどんどんと募り始めていく。

けど、これで焦って彼氏を作ったら、また同じような失敗を繰り返してしまいそうな気がして、やっぱり今はまだ積極的に動くべきではないと思う。

紗耶や澤村さんが言うように、本当の幸せを掴みたいのなら、これまでの考え方を改める努力をしないとダメなのかな……。

そう思いながら自転車を漕いでいるとあっという間に図書館へと到着し、普段なら真っ先に恋愛小説コーナーに向かうけど、暫くはそういうものに触れたくないので、私は何冊かの自己啓発本を借りてからその場を後にする。

あとは、このまま近所にある行きつけのカフェに行けば良いのだけど、今日は少し気分を変えて新たな場所でも開拓しようと思い、図書館裏にあるベンチに腰掛けて携帯を取り出そうとした時だった。


「……あれ?あそこにいるのって……」

ふと視線を前に向けると、駐輪場の奥にある公園前で見知った人の姿が視界に映り、私は手に持っていた携帯を鞄にしまうと、急いでベンチから立ち上がって近付いてみる。

そこには私服姿の高坂部長が立っていて、まさか休日に会えるなんて思ってもみなかった私は度重なる偶然に小さくガッツポーズをした。

どうやら誰かと立ち話をしているようで、その相手はスーツ姿にサングラスに口髭という何やら強面そうな男の人。まるでヤクザのようにも見えるけど、あの高坂部長がそんな人達と関わるわけがない。

きっと何か急ぎの仕事でもあったのだろうなと、そんなことをぼんやりと考えながら私はあわよくば話しかけるチャンスが来ないか機会を伺う。

それから暫くして話は終わったのか。強面な男性は高坂部長に何か封筒のようなものを渡してからその場を立ち去っていった。
< 40 / 223 >

この作品をシェア

pagetop