白い嘘と黒い真実
「高坂部長!」
男性が居なくなるのを見計らって私は彼に声を掛けると、高坂部長は少し驚いた様子で私の方に視線を向けてきた。
「椎名さん、奇遇ですね。この近くにお住まいなんですか?」
けど、直ぐにいつもの穏やかな表情へと戻り、優しい口調でそう問いかけてくれる高坂部長の私服姿が眩しくて、私は自然と口元が緩んでしまう。
「はい。よくそこの図書館を利用するんです。高坂部長はお休みの日でもお仕事をされているんですね。先程の人は取引先の方ですか?」
それから、あの強面な男性のことがどうしても気になったので、余計な詮索かもしれないけど思い切って尋ねてみた。
「そうだよ。でも仕事といってもただ依頼していたものを受け取っただけだから。俺もたまたまここに用事があって、ついでに届けに来てもらったんだ」
「そうだったんですね。なんかヤクザみたいに強面な人だったんで少しびっくりしましたよ」
取引先の方に対して何とも失礼なことを言っている気がするけど、あの風貌がその手の道の人にしか見えなかったので、つい本音が出てしまう。
「あはは。本当だね。俺も最初は驚いたよ。でも、うちで良い取引をしてくれるお得意さんなんだ」
しかし、高坂部長は特に気にすることなく笑顔でそう説明してくれたので、私はほっと胸を撫で下ろすと、彼から漂ってくるフェロモンのような良い香りに酔いしれながら、整った綺麗な顔立ちに暫しの間見惚れていた。
「それじゃあ、この後約束あるから俺はこれで失礼するよ。また会社でね」
「はい、お気をつけて」
そして、やんわりと微笑んでから近くに停めてあった車に乗り込み、この場を走り去っていくまで私は彼を見送り続けた。
……ああ、高坂部長って本当に目の保養だなあ。
これでもし紗耶が隣に並んだら、美男美女できっと絵になりそう。
そうやって頭の中で勝手に想像しながら一人その場で佇みニヤけていると、何やら周囲の視線が突き刺さってくるので、我に返った私は恥ずかしくなり慌ててきた道を戻る為に踵を返す。
すると、前ですれ違った女性の鞄から、何かが地面に落ちたのを視界の片隅で捉え、私はそれを拾って急いで彼女の後を追いかける。
「あ、あの、すみません!ハンカチ落としましたよ」
引き止める為に少し声を張り上げると、艶やかな長い黒髪女性はこちらの方を振り返り、目が合った瞬間、私はその美しさに思わず見惚れてしまった。
おそらく170cmくらいはありそうな女性にしては高身長で、黒いスーツスカートからはスラっとした細くて長い足が伸びている。
顔は私の一回り分くらい小さくて、日本人離れした堀の深さに目もビー玉のように大きくクリッとしたパッチリ二重だし、何より睫毛がお人形のようにフサフサで凄く長い。
年齢も私と同じか、それよりも下なのか。肌が絹のようにツヤツヤで、ぷっくりとした唇の下には黒子が一つあり、細いのに胸はそれなりにあって何だかとても妖艶な印象を受ける。
もしかしたらモデルさんなのかもと思いながら、私は今まで見たことのない綺麗さに圧倒され、同性なのに頬がほんのりと赤くなってきた。
「ありがとうございます」
それからスーツ姿の女性は口元を小さく緩ませてからハンカチを受け取ると、軽く会釈をして颯爽と歩いて行った。
……すごい。
テレビ以外であんな美人初めて見たかも。
やっぱり都会って色々な人がいるのね……。
なんて、上京してからかれこれ五、六年は経つくせに物凄い今更なことを内心で呟きながら、私は彼女の後ろ姿に暫くの間見惚れ続けていたのだった。
男性が居なくなるのを見計らって私は彼に声を掛けると、高坂部長は少し驚いた様子で私の方に視線を向けてきた。
「椎名さん、奇遇ですね。この近くにお住まいなんですか?」
けど、直ぐにいつもの穏やかな表情へと戻り、優しい口調でそう問いかけてくれる高坂部長の私服姿が眩しくて、私は自然と口元が緩んでしまう。
「はい。よくそこの図書館を利用するんです。高坂部長はお休みの日でもお仕事をされているんですね。先程の人は取引先の方ですか?」
それから、あの強面な男性のことがどうしても気になったので、余計な詮索かもしれないけど思い切って尋ねてみた。
「そうだよ。でも仕事といってもただ依頼していたものを受け取っただけだから。俺もたまたまここに用事があって、ついでに届けに来てもらったんだ」
「そうだったんですね。なんかヤクザみたいに強面な人だったんで少しびっくりしましたよ」
取引先の方に対して何とも失礼なことを言っている気がするけど、あの風貌がその手の道の人にしか見えなかったので、つい本音が出てしまう。
「あはは。本当だね。俺も最初は驚いたよ。でも、うちで良い取引をしてくれるお得意さんなんだ」
しかし、高坂部長は特に気にすることなく笑顔でそう説明してくれたので、私はほっと胸を撫で下ろすと、彼から漂ってくるフェロモンのような良い香りに酔いしれながら、整った綺麗な顔立ちに暫しの間見惚れていた。
「それじゃあ、この後約束あるから俺はこれで失礼するよ。また会社でね」
「はい、お気をつけて」
そして、やんわりと微笑んでから近くに停めてあった車に乗り込み、この場を走り去っていくまで私は彼を見送り続けた。
……ああ、高坂部長って本当に目の保養だなあ。
これでもし紗耶が隣に並んだら、美男美女できっと絵になりそう。
そうやって頭の中で勝手に想像しながら一人その場で佇みニヤけていると、何やら周囲の視線が突き刺さってくるので、我に返った私は恥ずかしくなり慌ててきた道を戻る為に踵を返す。
すると、前ですれ違った女性の鞄から、何かが地面に落ちたのを視界の片隅で捉え、私はそれを拾って急いで彼女の後を追いかける。
「あ、あの、すみません!ハンカチ落としましたよ」
引き止める為に少し声を張り上げると、艶やかな長い黒髪女性はこちらの方を振り返り、目が合った瞬間、私はその美しさに思わず見惚れてしまった。
おそらく170cmくらいはありそうな女性にしては高身長で、黒いスーツスカートからはスラっとした細くて長い足が伸びている。
顔は私の一回り分くらい小さくて、日本人離れした堀の深さに目もビー玉のように大きくクリッとしたパッチリ二重だし、何より睫毛がお人形のようにフサフサで凄く長い。
年齢も私と同じか、それよりも下なのか。肌が絹のようにツヤツヤで、ぷっくりとした唇の下には黒子が一つあり、細いのに胸はそれなりにあって何だかとても妖艶な印象を受ける。
もしかしたらモデルさんなのかもと思いながら、私は今まで見たことのない綺麗さに圧倒され、同性なのに頬がほんのりと赤くなってきた。
「ありがとうございます」
それからスーツ姿の女性は口元を小さく緩ませてからハンカチを受け取ると、軽く会釈をして颯爽と歩いて行った。
……すごい。
テレビ以外であんな美人初めて見たかも。
やっぱり都会って色々な人がいるのね……。
なんて、上京してからかれこれ五、六年は経つくせに物凄い今更なことを内心で呟きながら、私は彼女の後ろ姿に暫くの間見惚れ続けていたのだった。