白い嘘と黒い真実
すると、暫く紗耶はスプーンを持って固まったまま、穴が空く程長いこと凝視されてしまい、私はどう反応すればいいのか分からずその場で狼狽える。

「びっくりしたー。まさか真子の口からこんなまともな言葉が出てくるなんて。大分改心したわね。こう言っちゃなんだけど……結果的に健の一件があんたの良い転換期になったのかもね」

それから、ようやく口を開いた紗耶の最後の一言が何だかとても心に響き、私は改めて考えさせられた。



「……あ、隣いいかな?」

その時、頭上から知った声が響き、見上げると、そこには思いもよらない人物が目の前に立っていて、私も沙耶も驚きの余りその場で固まった。

「こ、高坂部長お疲れ様です。珍しいですね。食堂でお会いするなんて」

「そうだね。なんかここのオムライス評判良いみたいだから、ちょっと気になって」

ようやく声が出せた私はしどろもどろになりながら尋ねると、高坂部長は眩しい程の爽やかな笑顔を振り撒き、自然な流れで紗耶の向かいの席に座る。

その瞬間、私は内心拍手喝采を送りながら、紗耶に目配せをした。

けど、予想と違い何だか困惑したような表情を見せている紗耶に、私は訳が分からず小さく首を傾げる。

「紗耶も今日はオムライスだよね。私はまだ食べたことないけど、やっぱり美味しいの?」

とりあえず、折角なので高坂部長と沢山会話をして欲しくて私は沙耶に話題をふる。

「あ……う、うん。ここのデミグラスソースの味が深くて、卵もふわとろだよ」

しかし、紗耶は高坂部長の方には一切目もくれず、こちらだけを見て答える姿に益々違和感を覚えた。

もしかして、照れてるのかな?
普段はクールだけど、好きな人の前だとしおらしくなっちゃうのかも。

先程から急に大人しくなった彼女の反応に、私は頭の中でそんな想像をしながら、心の中で勝手に悶える。

「椎名さんはいつもお弁当なの?」

すると、せっかく共通の話題を持ち掛けたのに、高坂部長も紗耶の返答に関心を示さず、急に私のお弁当に目を向けてきたので、一瞬戸惑ってしまった。

「あ、はい。たまに外で食べたりもしますけど、最近引っ越したばかりでお金なくて。暫くはお弁当続きですかね」

とりあえず、紗耶には申し訳ないと思いながらも、自前のお弁当に触れてくれた事が素直に嬉しくて、私は頬を緩ませながら笑顔で応える。

「彩も綺麗だし、美味しそうだね。おかずは全部作ってるの?」

「はい。夜は自炊してるので、その残り物とか前の日に詰めて、朝は卵焼きを作ったりしてますよ」

「へえー、そうなんだ。家庭的な人って良いよね」

しかも、そこから話が膨らみ始め、更にはお褒めの言葉まで頂けるとは思っていなかったので、私は頬に熱を帯びていくのを感じながら、とりあえず高坂部長との会話を楽しむ。
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