白い嘘と黒い真実

第4話.呼ぶ人

真っ青な空の下、日差しが差し込み心地よい風が吹く爽やかな朝。

こういう時は何もなくても気分が晴々として、今日一日が良い日になりそうな気持ちになっていく。

田舎では加えて空気も美味しく、青々とした緑が一面に広がっているので、幾つになっても快晴の日は特に故郷の景色を懐かしく思う。

老後は田舎に帰って余生をゆっくり過ごすのが密かな私の夢でもあり、それを実現する為にも人生を見直して貯蓄をしっかりとしていかねばと思いながら、今日も資格本を携えて合間を見ては通勤途中でも勉強に励む。


「椎名さん、おはよう」

すると、会社の入り口手前で突然高坂部長に声を掛けられ、本に目を向けていた私は勢いよく背後を振り向いた。

「お、おはようございます」

これまで高坂部長から挨拶なんて一度もされた事がなかったので、内心驚きながらも、朝から日差しにも負けないくらいの眩しい笑顔に心を撃ち抜かれながら、私も満面の笑みで挨拶を返す。

「あれ?朝から勉強?」

しかも、手に持っている本にも関心を示してくれて、恐縮な思いになりながら私は背表紙を見せた。

「はい。検定を受けようかと思いまして。私もずっと派遣ってわけにはいかないですから」

そう思い立ってからまだ数日しか経っていないので、あまりたいそれた事は言えないけど、せめて意気込みだけはみせようと私は小さく拳を握り締めた。

「そっか……。もし正社員決まったらここも辞めるって事だよね?」

そんな私と相対して、明るかった部長の表情が一変し、何やらとても寂しそうな目を向けてきたので、その眼差しに一瞬戸惑う。

「そ、そうですね。自宅からも近くて環境も整っているので、出来ればずっとこの会社で働きたい気持ちは山々なんですけど……」

それに紗耶もいるし。と心の中で付け足しながら、本当にここで正社員として認めてくれるならどんなに良いかと理想を抱きながら、私は苦笑いを浮かべた。
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