白い嘘と黒い真実
「……それなら、考えてみるよ。君の働きぶりを見直してみて、良ければ正社員として雇用出来るか父親に掛け合ってみるから」

すると、まさかの予想だにしない高坂部長の提案に、私は驚きのあまりその場で立ち止まり自分の耳を疑った。

「え？……ほ、本気ですか？」

こんな安請け合いみたいな形で言われてしまい、もしかしたら冗談かもしれないとも思ったけど、急に真剣な表情で考え込む姿を見る限りだと、どうやらそうでもなさそうな雰囲気に私は益々戸惑いを隠せない。

「勿論。君みたいな素直で明るくて真面目な子がいなくなっちゃうのは俺も寂しいし、出来る限りのことはしてみるから」

しかし、私の不安を一掃してくれるような心からの笑顔を見せられてしまい、不覚にも私のミーハーな心臓が反応してしまう。

「それじゃあ、今日も一日頑張ろうね」

それから、未だ頭の中が混乱していて上手い返事が出来ないままでいると、高坂部長は特に気にする素振りを見せることなく、これまた爽やかな空気を撒きながら颯爽と手を振って行ってしまった。

私は暫く呆然と佇みながら高坂部長の後ろ姿をひたすらに眺め続ける。


……信じられない。

本当に、高坂部長は私を正社員にするつもりなのだろうか……。

あまりの唐突な出来事に、私はなかなか現状を受け入れることが出来ず、ああ言われたものの頭の中は疑問で溢れそうになった。

これまで高坂部長とは部署が違うので殆ど接点なんてなかったのに。あったとしても倉庫で鉢会ったのと、休日の日にばったり遭遇したことくらい。
それからは、食堂の時に声を掛けてくれたけど、あれはきっと紗耶が居たからだと思うし……。
それで、こんな大事な話を簡単に受けてくれるものなのかな？

こんな事をもし周りに話せば、一瞬で私は女性社員から除け者にされてしまう程の贅沢過ぎる状態だとは思うけど、なんだか腑に落ちない部分が残り素直に喜ぶことが出来ない。
本来なら、こんな願ってもいない話に直ぐ飛び付いて舞い上がっているはずだけど、あまりにも急展開過ぎて私の脳みそが付いていけていないのだろうか。それとも、これまでの経験から流石に少しは成長したのだろうか。

そう思いながらも、とりあえず高坂部長の配慮にはしっかり感謝しようと。私は半信半疑でこの話を受け止めることにして、一先ず勉強の続きをしようと再び本を開いたのだった。
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