白い嘘と黒い真実
出勤すると今日は紗耶が不在のため話し相手が側にいない寂しさを感じながら、私は午前中の業務に早速取り掛かかる。
すると、係長から珍しく銀行のおつかいを頼まれたので、私は快く承諾すると、社内で共有している手提げバッグを携えて軽い足取りで外へと出た。
基本はずっとデスクワークの為、こうして外出するのはとても新鮮味があり、特に今日みたいな天気の良い日は中で仕事をしていると息が詰まりそうになるので、外に出れることがとても有難い。
しかも、時間的に通勤ラッシュは過ぎていて人通りが少なく、通りは閑散としているので、この心地良い静かな空気を少しでも満喫したい私は歩く速度を若干遅らせながら徒歩十分くらいの距離にある銀行へと向かう。
今回は振り込みと窓口での手続きがあるから、少し長めの滞在になるかなと思いながら、大通りから外れた道の角を曲がった時だった。
目的地である銀行に辿り着くと、何やら入口前で数名の人だかりが出来ていて、皆中を覗きながら騒然としている。
しかも、その内の一人はかなり焦った様子で何処かに電話を掛けていて、その尋常じゃない様子に一瞬入るのを躊躇ったけど、中の様子が気になり過ぎて、怖いもの見たさに店内に足を踏み入れた途端、思わず息を呑んだ。
「カネ、ここにカネ入れろ、早くっ!」
目の前には黒い目出し帽を被った二人組の男が、カウンター越しで銀行員にナイフを突きつけながら片言の日本語で怒鳴っている光景が繰り広げられ、私は一瞬何かの小芝居が始まっているのかと辺りを見渡す。
けど、奥にいる銀行員数名の緊迫した空気と、恐れ慄いている周囲のお客さんの様子を見る限り、それは違うと直ぐに確信した。
……う、嘘でしょ。
これって、もしかして強盗……。
それから、ようやく今起こっている現状を理解し始めた瞬間、もたつく銀行員に痺れを切らしたのか。強盗犯の一人が突然カウンターを乗り越えて、対応していた男性の首を腕で締め上げてから更にナイフを近付けさせる。
「三十秒以内に持ってこないと、こいつコロス。早くしろ!」
そして、かなり興奮状態になりながら、今にも男性の首元に切りつけてしまいそうな勢いで怒号を飛ばし、周囲の女性社員は恐怖のあまり悲鳴を挙げてしまう。
やだっ、どうしよう!
は、早く警察っ……!
私も生まれて初めて強盗現場を目の当たりにしてしまい、今までにないくらいの恐怖に血の気が引いて全身が震えだしてくる。
まさかこんな事態になっているとは思いもよらなかったので、興味本位で入ってしまった事がいかに間抜けだったか自分を激しく呪う。
兎に角、一刻も早く外に逃げたいところだけど下手に動くと強盗犯を刺激しそうで、その場でたじろぐ。
確か、入り口前で誰かが電話していたから、きっと通報してくれているのだろうと。
そう信じて私は早くこの事態が収まらないか切に願っていた時だ。