白い嘘と黒い真実
外から車の急ブレーキ音がした瞬間、スーツ姿の男性が勢い良く店内に入り込み、カウンター前に立つ強盗犯目掛けて走る。

その見覚えある後ろ姿に、私はハッと目を見開くと、スーツ姿の男性は軽々とカウンターを乗り越え、腰に携えていた小さなケースから黒い棒を取り出した。

次の瞬間、捉えられていた銀行員の人を引き剥がし、強盗犯の右手に棒を強く叩き付けると、男はその痛みに耐えられず悲鳴をあげて持っていたナイフを地面に落とし、後ろへとよろける。

その隙を狙い、即座にスーツ姿の男性は強盗犯の胸ぐらを掴んで奥の壁に叩きつけると、男の腹部目掛けて思いっきり拳をお見舞いさせた。


さ、澤村さん!?

それは紛れもなく彼の姿で、澤村さんはこんな緊迫した状況でも落ち着いた様子で、うずくまろうとしていた強盗犯の腕を掴み上げ、腰に添えていた手錠を即座にかける。

そんな彼の勇姿に気を取られていると、もう一人の強盗犯がその場から逃げだし外に出ようとしたところ、同じくスーツを着た四十代ぐらいの男性警察官が入り口を塞ぎ、瞬時に強盗犯の胸ぐらを掴み上げると、背負い投げをして思いっきり地面に叩きつけた。


か、格好良い……。

私の直ぐ脇でそんな光景が繰り広げられ、あっという間に強盗犯二人を取り押さえた澤村さん達に今度は違う意味で体が震えてくる。

これまた生まれて初めて現行犯逮捕の瞬間を目の当たりにした私は、先程から鼓動がうるさいくらいに激しく鳴りっぱなしだ。

それから、澤村さんは強盗犯が被っていた目出し帽を剥ぎ取ると、その正体は三十代前後の男で、片言で喋っていたからてっきり外国人かと思いきや、顔立ちを見る限りだと普通の日本人男性で、私は拍子抜けしてしまう。


「澤村、無線で報告する間任せて大丈夫か?」

すると、隣に立っていたもう一人の男性警察官は背中を痛そうに押さえている同じ日本人男性の腕を引っ張りながら、彼の元へと近寄る。

「はい。下手な動きをしたらしばきますので」

「くれぐれも防カメ(防犯カメラ)の死角でなー」

相変わらずの無表情で、さらりとヤクザまがいな台詞を吐く澤村さんに対し、それを笑いながら軽く受け流したもう一人の警察官。

そんな二人のやりとりをじっと眺めていると、不意にこちらに視線を向けてきた澤村さんと目が合い、私の心臓は大きく跳ね上がる。

しかし、何事もなかったように直ぐ顔を背けられ、澤村さんは銀行員の人達の手を借りて、強盗犯二人組を引き連れて部屋の奥へと行ってしまった。
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