白い嘘と黒い真実
「やばっ、あの警察官めちゃくちゃ格好良くない?」

「刃物の前でも全然ビビらなかったし、目の前で犯人逮捕した瞬間マジで惚れたわ」

暫くして、周囲の緊張が解れ出した途端余裕が出てきたのか。カウンターの中にいた若い女性銀行員達が頬を赤く染めがら、澤村さんのことを話している声が聞こえ、私も心の中で彼女達の言葉に激しく賛同する。

これまで澤村さんの仕事姿は取り調べ室の中でしか見たことなかったけど、まるでスーパーヒーローみたいな登場をして、あんなに潔く堂々と犯人を確保する姿を見せられては反則技もいい所だ。


どうしよう、もう格好良過ぎる。
あの人が私の隣人なんですー!
……って、今すぐこの場で叫びたいっ!

私は一向に鳴り止まない鼓動を抑え、目の前にいる女性達に思いっきり自慢したい衝動を堪えながら、暫く余韻に浸る。

それから、ようやく気持ちが落ち着いたところで、私はこの事態を上司に直ぐ電話で伝えると、電話越しからもかなり驚愕しているのが分かる程に動揺していた。 

私も始めのうちは恐怖と混乱で気持ちが一杯一杯だったけど、今は澤村さんの勇姿に心を完全にもっていかれた為、頭の中はもう彼のことしか考えられなくなっていた。

とりあえず、手続きの方は出来ればという事になったけど、程なくして応援に来た警察官達の対応をしていたり、お客さんの対応に追われていたりで慌ただしかったので、また日を改めようと私はその場を引き返す。

その間に聞こえてきた警察官と銀行員のやりとり。
どうやら、振り込め詐欺対応で丁度その周辺のATMを警戒していた最中に起こった事件のため、こんなに早く現場に駆け付けることが出来たのだとか。
そして、澤村さん達は応援が来てから暫くして、犯人を車に乗せると、早々にこの場を離れていってしまった。

仕事中なので話す余裕なんて全くないのは分かっていたけど、少しだけ期待していた分、一言も会話が出来ず、あれから一切目も合わせてくれなかったことに私はがっかりした気持ちで来た道を戻る。
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