白い嘘と黒い真実
「椎名さん、銀行強盗に遭遇したんだって?大丈夫だった!?」
そして、職場に戻るや否や、周りの人達に心配された後直ぐに血相を変えた高坂部長が駆け付けてくれて、まさか彼まで来てくれるとは思ってもいなかった私は、内心驚きながらもその気遣いが素直に嬉しかった。
「はい。タイミング良く警戒中の警察官が駆け付けてくれたので犯人も無事逮捕されました」
そして笑顔で報告をする最中、再び澤村さんの勇姿が脳裏に浮かび上がり、自然と頬が熱くなっていく。
だめだ。
せっかく高坂部長と会話出来ているのに、さっきから澤村さんの姿が脳裏にこびり付いて離れない。
ちょっとでも油断すると、直ぐ彼のことを考えてしまい、自分ではどうにも抑えることが出来ず、私の鼓動はあの時と同じように再び速さを増していく。
「とりあえず、無事で良かった。とんだ災難だったね」
すると、高坂部長は安堵の溜息を吐くと、やんわりと微笑んでから私の頭にそっと手を置いてくれた。
その瞬間、久しぶりに人から頭を撫でられたことに驚いた私は、これまで澤村さんに向けていた意識が今度は高坂部長の方へと一気に偏り始める。
え?ちょっと待って。
刺激が強すぎるんですけど?
我ながら単純だなとは思いつつも、彼に触れられている恥ずかしさと嬉しさのあまり高坂部長とまともに目を合わす事が出来ず、足元に視線を落とす。
「……は、はい。ほ、本当にそうですね」
本来ならもっと会話を広げられるはずなのに、これ以上の言葉が何も思い浮かばず、私はしどろもどろになりながらそう答えると、高坂部長は私の頭から手を離して優しく微笑んでくれた後、踵を返して持ち場へと戻っていった。
……よ、良かったー。この場に紗耶がいなくて。
なんて、彼が去った直後、思わず心の中で呟いた言葉が友達として最低だったと後になって思う。
本当に高坂部長は何故にこうも私を気にしてくれるようになったのか訳が分からない。
もしかして、紗耶の友達だから気にしてくれているのかな?
思い当たる理由としたらそれぐらいしか見当たらないので、私はそういうことにしておこうと。特に深くは考えず、気持ちを切り替えて自分のデスクへと戻り、とりあえず作業に集中することにしたのだった。