白い嘘と黒い真実
その時、突然前を歩いていた澤村さんの動きが止まり、珍しくこちらの方を振り向くと、何やら黙ったまま凝視されてしまい、そんな彼の視線に自然と頬が熱くなっていく。

「あ、あの?どうかしましたか?」

これまで澤村さんの方から意識を向けられた事がなかったので、戸惑いと恥ずかしさで頭の中が混乱していると、今度は私から目を逸らし何かを考え込むように遠くを見つめた。

「……いや。本当にあなたの行く先々で色々と事件が起きるなあ……って思いまして」

すると、何気く呟いた澤村さんの一言に衝撃が走り、まるでネジの回転が止まったブリキのおもちゃの如く、私はその場で微動だにしなくなる。

「うちでもよくあるんですけど、ある勤務員が居るとやたら扱い件数が増えたり、特異事案が起きたりするんですよね。何だか椎名さんてそういう類の人のような気がするんです」

それから、しみじみと語られた話の内容は期待していたのと全く違い、私は呆然としながら黙って澤村さんの言葉に耳を傾ける。

「昨日もそうでしたが、あなたが関わる事件は全て身柄になる。お陰で管内の検挙率が徐々に上がり始めているんですよ」

しかも、今までにないくらい良く喋る上に、徐々に柔らかい顔付きへと変わっていく。

「多分、椎名さんは究極の“呼ぶ人”なんでしょうね。超はた迷惑な存在ですが、ある意味幸運の女神ですよ」

そして、初めて見せる彼の悪戯な笑顔に不覚にも思いっきり心を打ち抜かれてしまったけど、言っている内容からは胸キュンポイントが何処にも見当たらず、素直に喜べない。
      
そんなこんなで、結局何も返答する事が出来ずただその場で突っ立っていると、澤村さんは無反応な私を全く気にする事なく、何故か上機嫌な様子でさっさと階段を降りていってしまった。
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