白い嘘と黒い真実
まさか、訪問先が澤村さんだなんて。
もしかして、彼女さんなのだろうか?
……けど、確認したいって言ってたから多分違うと思う。
ここへ引っ越してきてから暫く経つけど、澤村さんが女性を連れ込んでるようなところは見たことないし……。

もしや、遠恋相手とか!?


「あの?どうかしましたか?」

すると、一向に反応がない私の顔を心配そうな面持ちで覗き込み、ガラス玉のような透き通った綺麗な目がかち合い、私はそこでようやく意識を取り戻した。

「す、すみません。何でもないです。確かに、澤村さんは私の隣人です」

取り乱す余り咄嗟にそう答えてしまったけど、果たして彼の個人情報を簡単に教えてしまっていいものだろうかと、後になって後悔が押し寄せてくる。

「あ、あの……。つかぬことをお伺いしますが、澤村さんとはどんなご関係で?」

とりあえず、無粋な質問であるのはよく分かっているけど、不安が拭い切れず、確認のために恐る恐る尋ねてみた。

私の中でこんな美女に悪人はいないという勝手な固定概念を抱いているけど、一応用心するに越した事はないと思いながら、その裏では彼との関係性を知りたい好奇心も含まれていることは否めない。

「昔からの知り合いです。澤村さんにはちょこちょこお世話になっているので」

そんな疑心暗鬼になっている私を他所に、美女は私から視線を逸らすと、自分の頬に手を充てて口元を緩ませながら少し照れたような素振りを見せてきた。


……え?なんだろう。この反応……。

ただの知人にしては、何でもこうも嬉しそうな表情をしているのだろう。

ちょこちょこお世話になってるって……。
もしかして、澤村さんが以前担当していた事件被害者とか?
けど、仕事絡みの相手に個人情報なんて教えないような……。
私が引っ越してきた時もかなり驚いていたし……。


……てことは、やっぱり“そういう関係”の人なの?


そう思うと、段々と靄が掛かったように気持ちが淀み始め、心が重くなっていくのを感じる。
そして、改めてどんな人なのか確認しようと、頭からつま先まで舐め回すよう彼女の姿をじっと観察した。

格好は以前と同じ上下真っ黒なスーツ姿。
この前はスカートだったけど、今日はスラッとしたパンツスタイルに白いフリルの入ったワイシャツと黒いパンプス。一見すると何処かのOLのようにも見えるけど、圧倒的な違和感を覚える。

それは、バッグを持っていないこと。
男性ならまだしも、普通、学生でも社会人でも女性なら必ずバッグを持つはずなのに、彼女は何も持っていない。

そして、スーツの襟には羽を広げた鷲が刻印された金色のバッジを付けていて、一体これが何の印なのか全く分からない。
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