白い嘘と黒い真実
まるでSPみたいな……。
仕事の関係者とかなのかな?
でも、こんな華奢でモデル体型で、髪も腰ぐらいまであるような人が澤村さんと同じ警察官とは思えない。

それに、わざわざ確認しに来ているという事は、きっと澤村さんの連絡先を知らないのだろう。

昔からの知り合いなら、知っていてもおかしくないはずなのに……。


何やら、以前の私では考えられない程の推測が頭の中を駆け巡り、これも全て澤村さん達の影響なのか、はたまた彼に関する事だから慎重になっているのかは分からないけど、私はこの美女のことが段々と怪しく思えてきた。

すると、暫くジト目を向けていると、突然彼女は吹き出して、口元に手をあてて小さく笑い始める。

「そんなに怪しまなくても大丈夫ですよ。私は桐生(きりゅう)(らん)と申します。彼には“神谷の家の者”と言えばすぐ分かりますので。もし澤村さんに会ったらまた今度伺うとお伝え下さい」

それから、落ち着いた口調でそう答えると、桐生さんはやんわりと微笑んでから軽く会釈して、この場を去って行った。


かみやの家の者?
なんだろう?親戚の人なのかな?

結局最後まで彼との関係性が分からないまま、私は暫く彼女の後ろ姿を呆然と見つめる。

「……はっ、私もこんな悠長にしてる場合じゃなかった」

澤村さんの反則的な笑顔と、突然の美女の訪問に自分も出勤途中だったということがすっかり頭から抜け落ち、遅れた時間を取り戻す為に慌てて走り出す。


なんだか、不思議な感じの女性だった。
顔はとても若々しくて、笑顔も可愛らしかったけど、大人びた雰囲気があって、どこか掴みにくいような……。

咄嗟に澤村さんの家を教えちゃったけど、本当に大丈夫だったかな……。

一応、この事は早めに伝えた方がいいかもしれない。
それで、あんな超絶美女が訪ねてきたなんて知ったら、澤村さんは一体どんな反応を見せるのだろうか。

もしも、彼女みたいに嬉しそうな表情をしたら、ちょっとショックだな。
でも、あれだけの美女を前にしたら、いくら澤村さんでも無理ないかも。

……まあ、私はあくまでただの隣人なだけであって、彼に干渉する資格なんか何処にもないのだろうけど……。
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