白い嘘と黒い真実
本当に、何があったというのだろうか。

澤村さんの話によれば、その女性は私に聞かなくてもそこに彼が住んでいることを知っているとのこと。

けど、敢えて私に聞いてきた。

しかも、以前に一度会っている事が、彼の反応を見る限りだとあまり芳しくなさそうな……。

桐生という名前にも意味がありそうだったけど、それが何なのかは教えてくれない。

もしかしたら、仕事と絡むことでもあるのだろうか……。


色々と考えを巡らせていると、段々と怖くなってきて、私は思わず自分の左腕をぎゅっと抱えてしまった。

「すみません、怖がらせてしまいましたね。大丈夫です。本当に何もないですから」

そんな私の様子に気付いたようで、珍しく澤村さんは申し訳なさそうな顔で私を気にかけてくれて、その優しさに不覚にもときめいてしまう。

「……ただ、もしまたその女性と接触があったら、その時は直ぐ俺に教えて下さい」

しかも、思ってもいない彼のお願いに、私の心臓は更なる反応を見せると同時に、頭の中である考えが浮かんだ。

「それなら、連絡先を教えてくれませんか?その都度訪問するのも迷惑でしょうし、速報するのも難しいかもしれないので」

以前貰った名刺に書かれた職場の電話番号にかけるのでもいいかと思ったけど、折角のチャンスを無駄にしたくないと。
こんな事を思っている状況では無いのは重々分かっているけど、またとない絶好の機会を逃したくなくて、必死にアピールする。

「……そうですね。ちょっと待ってください。今携帯持ってくるので」

「じゃ、じゃあ私も」

すると、一瞬間はあったものの、意外にもすんなりと了承してくれて、拒絶覚悟で挑んだ私は少し拍子抜けしてまった。

それから、お互い携帯を取りに行っている間、後から連絡先を交換出来る喜びがじわりじわりと込上がってきて、私の鼓動はどんどんと早さを増していく。
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