白い嘘と黒い真実
「なんか、すみませんね。こういうお店で。もう少し小綺麗な所にしようかとも思ったんですけど、ここの肉マジで美味いんっすよ。それに昔から縁ある店なんで、ここだけの話“警察”って言えば少しサービス良くしてくれるんですよねー」

交番の時と同じように、田中さんは席に着いて早々によく喋るので、お陰でこの場が少し和み段々と緊張の意図が解れていく。

逆に、澤村さんが無口なのは普段通りだけど、何だかいつにも増して拍車がかかっているような気がする。

「澤村さんは大丈夫ですか?なんか疲れてるように見えますけど……」

むしろ、こっちの方が夜勤明けではないのかと言うくらい、覇気を感じられず私は思わず聞いてしまった。

「昨日福岡に出張してたので」

「ふ、福岡ですか!?そんなこともあるんですね?」

すると、予想外の返答に私は驚きのあまりつい復唱してしまう。
警察の仕事にも一般企業みたいな遠出出張があるなんて初めて知ったので、一体どんな内容なのか興味が湧いてきた私は、更に踏み込んだ質問をしてみる。

「被疑者が福岡の人間なんですよ。管内で発生した事件なら、関係者が何処に住もうと国内海外問わず全部うちが扱わなくちゃいけないので」

「福岡は運ないよなー。確か家帰ったの午前様じゃなかったか?それで朝普通に出勤とか、そっちもなかなかキツイなぁ」

淡々と澤村さんが答えた後に、補足で教えてくれた田中さんの話に、更に衝撃を受けた私は暫しの間言葉を失ってしまった。

「そ、それでよく今日来れましたね?」

「早めに帰れたんで大丈夫です」

それから、不安になったので一応確認してみたところ、平然とした様子でそう答えたので、とりあえずそれで納得する事にした。

まさか二人とも体力を削られた状態での参加だなんて。むしろ、今すぐにでも家に帰って寝て欲しいくらいなのに、この人達は休むということを知らないのだろうか……。  

 
そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えている間、丁度店員さんが飲み物と料理を運んで来てくれたので、まずは乾杯をしようと。
私達はグラスを掲げてお互い軽くぶつけ合ってから、飲み会が本格的にスタートした。
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