白い嘘と黒い真実
「…………ふーん。なるほどね……」
それから、おおよその経緯を話し終えたあと、田中さんは腕を組み出し、宙を仰いだ。
「まあ、男によってそれぞれだと思うけど、俺の経験上ほぼ高確率でそれは浮気か、あるいは黒川さんには言えない何か秘密が出来たのか……だな」
そして、遠慮なくキッパリと断言してくる田中さんの宣告に、私も紗耶も言葉を失いその場で硬直してしまう。
「でも完璧主義者であれば、浮気だったらそんな中途半端なことはしないと思うなあ……」
けど、そんな私達にはお構いなしにと、教えてくれた田中さんの見解を踏まえて、私はこれまで自分が見てきた高坂部長の行動を振り返った。
「確かに、倉庫で会話していた時も仕事の話だったし、休日に会った時も相手は強面の人だったけど、取引先の人だったし。この前も食堂で聞いたのは医療関係の運送についてだったし……。浮気してそうなところは何もなかったけどなあ……」
やっぱり女性に絡むような事は何一つ見当たらなかったので、私の中で浮気路線はしっくりこない気がする。
「椎名さん」
「は、はい!」
すると、これまでずっと興味無さげに話を聞いていた澤村さんに突然名前を呼ばれ、不意をつかれた私はつい声が裏返ってしまった。
「………………いえ。何でもないです」
けど、澤村さんは一瞬間を空けてから話を強制終了させ、何やら深刻な表情で考え込んでしまったので、益々理解出来ない彼の行動に頭の中は疑問詞で溢れだす。
そんな澤村さんの異変に田中さんも何かを感じとったのか。一瞬真顔になるも、直ぐに柔らかい顔付きへと戻り、引き続き私達の話を親身になって聞いてくれた。
それからは、田中さんを中心にたわいもない話で盛り上がったり、澤村さんが同僚や市民の人達にいかに人気が高いかを教えてもらったりと。
気付けば時間はあっという間に過ぎ去り、そろそろお開きにしようと私達は店を後にする。
そして、簡単な別れの挨拶をしてから、紗耶と田中さんは駅方向へ。私と澤村さんはここから歩いて帰る事になった。