白い嘘と黒い真実
二人と別れ、家までの道中、私達は一向に会話がなく何だか気まずい空気が流れる。

飲み会でも殆ど話に加わることがなかったし、元々そうなのか、それとも乗り気じゃなかったのかは分からないけど、澤村さんはあまり喋ってくれなかった。

しかも、皆の前で子供の頃の話もしちゃったし、何とか誤魔化すことは出来たけど、もしかしたら“好きだ”って気持ちが明るみに出ちゃったかもしれないし。田中さんが茶化した時も凄く嫌がってたし……。

けど、こうして二人で家に帰るなんてまたとない機会だから、どんな状況であれ折角のチャンスを無駄にしてはいけないと。 

そう自分を奮い立たせ、私は気持ちを落ち着かせる為に小さく深呼吸をしてから、気合いを入れる。


「あ、あの。澤村さんも今日は来てくれてありがとうございました。澤村さんはどうだか分からないですが、私は一緒に飲めて楽しかったです」

とりあえず、話さなくても彼と同じ空間に居れたこと自体は嬉しかったので、私は澤村さんの隣に並び、満面の笑みを向けてその気持ちを伝えた。

「それは良かったです。俺もそれなりに楽しめましたよ」

すると、否定的な返答がくるかと思いきや、予想に反して柔らかい表情で同調してくれたことに、不意をつかれた私は思いっきり心を撃ち抜かれてしまう。

「驚きました。あまり会話に参加して来なかったから、私と居るのが嫌なのかなって思っていたので」

そして、勢い余ってつい余計な事を口にしてしまった気もするけど、あまりにも意外過ぎたので、もしかしたら私の思い違いだったのではないかと期待値が上がり、目を輝かせながら彼を見上げた。

「前にも言いましたけど、別にあなたが嫌いなわけではないです。……ただ、受け付けないんです」

“嫌いじゃない”と言われて気持ちが舞い上がったのも束の間。
受け付けないと断言され、見事撃ち落とされた私は何度目かのショックを受けるも流石に耐性が出来たようで、悲しいかな。気付けば乾いた笑いで受け流すくらいメンタルが鍛えられていた。

「すみません。隣人になちゃって。しかもトラブルばっかり起こすから迷惑もかけちゃって。私って本当に澤村さんの厄病神みたいですよね。本当に嫌気がさしたら私なんて見捨ててくれていいんですよ」

挙句の果てに段々と自暴自棄になってきてしまい、彼の前でこんなやさぐれた姿を見せたくないのに、捻くれた感情が抑えられず、意思に反してこれまでの不平不満がどんどんと口から漏れ出していく。

というか、嫌いも受け付けないも何が違うのかよく分からないけど、結局私はどんなに取り繕っても澤村さんにとってマイナスな人間であることは確かなので、この際全部吐き出してしまえと。徐々に開き直ってきた私は歪んだ表情で明後日の方向に目を向けた。
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