劣化王子(れっかおうじ)
そして、放課後。
「一緒に帰ろう、果歩ちゃん!」
ひとりで靴を履き替えるわたしのそばに、ユノが来る。
「……」
休憩時間も何度か話しかけてきた彼。
その度に、トイレや別クラスへ行くことを理由にして避けていた。
「あ……えっと、今日は急いでるから……」
「じゃあ一緒に走る!」
慌てて考えた理由では、どうやら逃げられそうにない。
電車でのことを思い出して困っていたら、
「あと、これ」
ユノがスッと何かを差し出してきた。
彼が手にしていたのは、
「……菜の花」
小学生時代を思い出させる一輪の花だった。
◇ ◇ ◇
“うわぁー! きれー!”
“まっきいろだねー!”
お別れする前に、とふたりで遊んだあの日がよみがえる。
“この花、果歩ちゃんみたい”
“わたし?”
“うん! かわいいし、太陽みたいな色だから!”
隣町にあった一面の菜の花畑。一輪を指差し「わたしっぽい」と微笑んだユノ。
その顔を見て思ったんだ。わたしよりユノのほうがこの花っぽいよ、って。
丸みを帯びた花びらが優しくて、まぶしいくらいの黄色がユノの笑顔と重なったの。