劣化王子(れっかおうじ)
“昨日、どうしたの? 遅刻って言ってたのに……”

入学式の次の日、しずちゃんは学校に来なかった。中学ではインフルエンザでしか休んだことがなかったあのしずちゃんが。

理由をたずねると、彼女は、

“あー……ちょっと忙しくて”

はっきり答えず、「忙しかった」のひと言で話を終わらせたの。

でも、その日からしずちゃんはぼうっとすることが増えた。わたしの話をちゃんと聞いていないことも多々ある。さっきみたいに真剣な目で一点を見つめることも……。


◇ ◇ ◇



「悩みでもあるのかな」

あるのなら言ってくれればいいのに。

わたしには言えないことなのかな?

「果歩! みんなもう集まってるよ!」

「あ、今行く!」

気になるけど……まぁいっか。

言いたくないならこれ以上は聞かないほうがいい。そう判断して、わたしはトイレを後にした。


◇ ◇ ◇



2泊3日のオリエンテーションは山の中で行われる。

古い温泉旅館に寝泊りするって話だったから、てっきり露天風呂とかもあるのかなって想像してたんだけど……。

「掃除用具は全部、この中!」

「……はーい」

昭和の銭湯のように大きな湯船がひとつあるだけで、それを掃除するのは実行委員の役目だった。

他のクラスの女子に混ざってブラシを取りに行く。すると、後ろに並ぶふたりの女の子が「山咲さん」と声をかけてきた。


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