劣化王子(れっかおうじ)
「しずちゃん……何かあった?」

昨日、わたしに怒っていたときもどこかつらそうだった。

しずちゃんは第三者の立場なはず。なのに、そうじゃない表情をしていたの。

そして今もまたつらそうな顔。

中学時代の、わたしたちのケンカを振り返る。

しずちゃんは自分が悪くないと思ったら絶対に謝らないタイプ。テキトーな「ごめん」は言わない人なの。

「……最近、なんか変だよ?」

しずちゃんは、ユノの体型にこだわって愚痴ってばかりのわたしに腹が立ったんじゃないの?

「なんでしずちゃんが悪いの?」 

全然理解できなくて、その考えを聞こうとした。

でも彼女は、

「ほら……わたしって言葉を選ばないからさ」

暗い表情をやめて、いつも通りに笑ってきたの。

「……そんなのは気にしてないけど」

嘘だ、と感じた。

じっと顔を見ているのに、全然、目が合わないから。

「そんなことより……さっき“作業に戻る”って言ってたけど、表札はどこまでできてるの?」
「ん、まだ彫刻に入ったばかり」

「え……じゃあ、急いだほうがいいよ。もうみんな塗装に入ってるから」

駆け足で戻る、実習の場。

しずちゃんはなんで言ってくれないんだろう。

わたしには言えないことなの?

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