劣化王子(れっかおうじ)
駅前のバーガーショップに到着し、店の外にまで続く行列を見てぞっとする。
「果歩ちゃんと松本(まつもと)さんは席で待ってて。ドリンクはオレたちが買ってくるから」
列に並ばなくていいよ、とユノは笑顔で言ってくれた。
「ジェントルマンだよね、ユノくんって」
空いた席に荷物を置くしずちゃんは、ユノの気が利くところを褒める。
わたしは椅子に腰掛け、窓の外を見た。
小さな子供のように券を大事そうに持ち、うきうきした表情で並んでる。
ここに来るまでの間でも、ハンバーガーについて熱く語られた。
“アメリカのハンバーガーは日本のものより大きいんだ! これくらい!”
目をキラキラさせて、満面の笑み。
“ハンバーガーも好きだけどホットドックも好き! ニューヨークへ遊びに行ったとき、街中にカートがあるからよく買ってたなぁ~!”
調理実習でも思ったんだけど、ユノって……食べ物について話すときがいちばん幸せそうだよね……。
“最近は日本でもポップコーン屋が増えてるってニュースがあった! 嬉しいなー!”
正直、ちょっと引いた。
パスタにハンバーガー、ホットドックにポップコーン。ユノの話に出てくる食べ物はカロリーが高いものばかり。
だから太るんだよ、って言いたくなった。
「はぁ。なんでこんなところにいるんだろ……ダイエットをすすめるつもりだったのに」
「……あんた、ホントに言うつもり? 太ってる人にやせてって……言いづらくない?」
しずちゃんは“傷つけるんじゃないか”と心配してる。
「ダイレクトに言うつもりはないよ?」
さすがに“やせて”とは言えない。
遠回しに言って“やせよう”と思わせたいの。
「ふうん……」
「まぁまぁ、心配しなくても大丈夫! ちゃんと案はあるから!」
わたしは自信を持って、考えてきた言葉を胸に、ユノたちが来るのを待っていた。
ところがその15分後、わたしは向かいの席に座るユノを見て、言葉を失う。