劣化王子(れっかおうじ)
体をそっと抱き上げてきた彼は、流し目で囁く。
「“キミは、ボクだけのお姫さま……でしょ?”」
それは、大好きなマンガのワンシーン。
何度も間の取り方を練習させたから、このセリフを言うユノには免疫がある。
なのに、実際に間近で囁かれると……。
「うわぁ……見てるほうが恥ずかしくなるね!」
「ちょっとこっち向いて、写真撮るから!」
周りが騒ぎはじめ、わたしは両手で顔を隠す。
「も、もう下ろして! お願い! ユノっ」
写真を撮られる前に、と急いで叫んだ。
けれど、
「っ、せっかくだし……撮ってもらおう?」
一瞬だけつらそうな目をした彼は、わたしを抱きかかえたまま、写真を撮ろうとする子たちに顔を向ける。
「……ユノ?」
なんだろう、今の表情……。
「こっち向いてー! 果歩ちゃん!」
数名からのフラッシュの光。それらを浴びても、わたしはまだ彼の横顔から目を離せずにいる。
レンズに微笑むその表情が、無理をしたものに見えているから……。