劣化王子(れっかおうじ)
第九話:隠しごと
“せっかくだし……撮ってもらおう?”
気のせいだったのかな? その言葉を言う前、一瞬だけつらそうに見えた。
「ん? 誰か、電話鳴ってない?」
「ホントだ。ブルブルって音が聞こえる……」
微かな振動音で、クラスメイトの何名かは自分のポケットに手を突っ込む。
すると、わたしを抱きかかえていた彼は「ごめん」と小さな声で囁き、
「オレだと思う」
誰の電話が鳴っているのか探していた子たちにそう言った。
ストンと下ろされたわたしのそばに、しずちゃんがやってくる。
「後で送ってあげる」
「え?」
「わたしも撮ったから」
スマホのディスプレイを見せられる。
歯を見せて無邪気に笑うユノと、カメラを気にしていなかったわたしの姿。
「……」
写真じゃよくわからないな。
ユノの笑顔は普通に見える。
「何、スネてんの? 自分が選ばれなかったからって」
「……っ! は!? スネてねぇし!」
近くに鮎川がいたのか、しずちゃんは声をかけにいく。
ふたりが話すそばで、わたしはじっと、電話をするユノを見つめていた。