劣化王子(れっかおうじ)
「……っ」
痛みが走ったのだろうか。
突然、彼は立ち止まり、カバンを持ったまま左の二の腕をさすり始めた。
けれど、すぐに平静を装い、話しかけてきた男子たちに応えている。
「やっぱり……」
1時間前、わたしを抱きかかえた彼は、どこかつらそうな顔だった。
それを見て、わたしは最初、自分の体重を気にしたの。
でもその後すぐ、入学式のアレを思い出した。
“何メートル飛びたい?”
あのときのユノは余裕があった。
背丈のある男の子を振り子のように回していた彼が、わたしひとりに“重い”と感じるはずがない。
「左腕……」
いつ痛めたの? ……思い当たる節はひとつある。
“果歩ちゃん!! 危ない!!”
あの時じゃないの?
“もう平気!”
怪我をしたのは足だけじゃなかったのかも……。
「……ユノ」
明日、大丈夫なの?
“目玉のシーンだし、クジの数もいちばん多いもんね”
あの後、マミちゃんから聞いたの。
クジは使い捨てだから沢山作っていて、他のシーンは30枚ずつだけど、お姫さま抱っこのくじは60枚にしておいたよ、って。
「っ……」
明日の彼を想像をし、急いで2階へ上がる。
自分じゃ何をしていいのかわからないから、とりあえず先生に相談してみよう。
そう考えていたんだけれど、
「……いない」
職員室を覗いても、担任の姿はどこにもなかった。
どうしようと困りつつ、それとなく見た入り口すぐのキーフック。
「あれ……」
うちのクラスの鍵が、ない。
ユノたちが戻しにきたはずだから、先生が持っていったのかな?
教室に行けば先生に会える。そんな気がして急いで向かった。
ところが、
「うおっ! びっくりしたぁ……」
「なんで……」
中で会えたのは担任じゃなく、鮎川だった。
彼は電気もつけずに暗がりの中でしゃがんでいる。
「何してるの?」
「あー……と、これは……」
「クジだよね、それ」
箱の中から出したのだろう。
大量のクジが鮎川の足元に散らばっている。
電気をつけると、彼はばつが悪いというかのような顔で、頭をわしゃわしゃかく。
そして少し考えてから、ため息まじりに口を開いた。
「ユノがさ……アイツ、お前を助けたっていうあの日から、ちょっと様子が変で。腕をかばうような素振りをするときがあるんだ」
「っ!」
「本人に聞いても、平気そうにして“痛めてない”って言い張るんだけど。気になるから、一応……枚数を減らしておこうかなって。“多めに入れた”って聞いたからさ」
同じことを心配していた鮎川。
痛みが走ったのだろうか。
突然、彼は立ち止まり、カバンを持ったまま左の二の腕をさすり始めた。
けれど、すぐに平静を装い、話しかけてきた男子たちに応えている。
「やっぱり……」
1時間前、わたしを抱きかかえた彼は、どこかつらそうな顔だった。
それを見て、わたしは最初、自分の体重を気にしたの。
でもその後すぐ、入学式のアレを思い出した。
“何メートル飛びたい?”
あのときのユノは余裕があった。
背丈のある男の子を振り子のように回していた彼が、わたしひとりに“重い”と感じるはずがない。
「左腕……」
いつ痛めたの? ……思い当たる節はひとつある。
“果歩ちゃん!! 危ない!!”
あの時じゃないの?
“もう平気!”
怪我をしたのは足だけじゃなかったのかも……。
「……ユノ」
明日、大丈夫なの?
“目玉のシーンだし、クジの数もいちばん多いもんね”
あの後、マミちゃんから聞いたの。
クジは使い捨てだから沢山作っていて、他のシーンは30枚ずつだけど、お姫さま抱っこのくじは60枚にしておいたよ、って。
「っ……」
明日の彼を想像をし、急いで2階へ上がる。
自分じゃ何をしていいのかわからないから、とりあえず先生に相談してみよう。
そう考えていたんだけれど、
「……いない」
職員室を覗いても、担任の姿はどこにもなかった。
どうしようと困りつつ、それとなく見た入り口すぐのキーフック。
「あれ……」
うちのクラスの鍵が、ない。
ユノたちが戻しにきたはずだから、先生が持っていったのかな?
教室に行けば先生に会える。そんな気がして急いで向かった。
ところが、
「うおっ! びっくりしたぁ……」
「なんで……」
中で会えたのは担任じゃなく、鮎川だった。
彼は電気もつけずに暗がりの中でしゃがんでいる。
「何してるの?」
「あー……と、これは……」
「クジだよね、それ」
箱の中から出したのだろう。
大量のクジが鮎川の足元に散らばっている。
電気をつけると、彼はばつが悪いというかのような顔で、頭をわしゃわしゃかく。
そして少し考えてから、ため息まじりに口を開いた。
「ユノがさ……アイツ、お前を助けたっていうあの日から、ちょっと様子が変で。腕をかばうような素振りをするときがあるんだ」
「っ!」
「本人に聞いても、平気そうにして“痛めてない”って言い張るんだけど。気になるから、一応……枚数を減らしておこうかなって。“多めに入れた”って聞いたからさ」
同じことを心配していた鮎川。