かすみcassette【完】
「おはよう、霞湖ちゃん」
「あ……おはよう、ございます……」
うん? ……なんか昨日も思ったけど、霞湖ちゃんの態度が戻っちゃってない?
斎月の誤解は霞湖ちゃんをきっかけにして解けたから、お礼を言いたいくらいなんだけど……なんだかまた、俺に対して壁を作ったように見える。
前回は俺と二人のときに調子を悪くしたから、明らかに俺のせいだとわかったけど、今回は……なんだ? 心当たりがない……。
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なんだかなー……。
昼休み、いつもは友達と昼飯を食べているけど、今日はちょっとひとりになってみた。
裏庭のベンチに座って、空を仰ぐ。
木陰があるので、昼ご飯を食べたり駄弁っている生徒が点在している。
なんだろうこのもやもや……ひとつずつ解決できるかな? そう思って、脳内で整理していくことにした。
斎月と國陽のことは片付いているから、モヤモヤはしていないと思う。
学校での斎月騒ぎも、今朝訊かれた一件以来何も言われていない。
あとは……
「……あの態度、だよな……」
霞湖ちゃんの。
一番モヤモヤしていて、そのモヤモヤがなんなのかわからなくて、更にモヤっている。
ってか、律が変なこと言うから余計気になっているだけだと思う。
うん、そうだ。俺は自分で選んでいい立場じゃない。だから俺が霞湖ちゃんを気になっているってことも、ないはずだ。
「あ。その釘をさしにおじいさん出てきたのか?」
おじいさんの家から、司の家にお嫁には出せないって言っていた。
……。
「なんか俺、本気みたいじゃん……」
口元を片手で覆ってつぶやく。
そんなの、律や國陽や斎月の言葉を肯定してるだけじゃん。
「まさかな……自分でも把握しきれないとか、やべえ……」
ありえない。管理できない感情があるということが、俺自身に認めることができない。
……國陽と斎月は許嫁になる前に出逢って両想いになっているので、恋愛の上に許嫁になっている。あいつらもこんな感じになったことあるのか?
……俺が霞湖ちゃんに片思いしているとしても、結果は決まっている。
想いを告げることも叶わずに、失恋。
それはお互いの気持ちがどうのではなく、俺が司だから。