Labyrinth~愛に迷う~
「おはようございます」

 私は振り返りながら挨拶した。私と同じ庶務のパートの金子さんが立っていた。

 心なしか目が怒っているように見えるのは気のせいではないだろう。何を言われるか予測出来た。

「おはようございます、川島さん。もう少し早く、せめて5分前には来ていていただかないと。」

「はい。」

 こういう場合おとなしく返事をしてやり過ごすに限る。

「金子さん、私入力しますね。」

 私はパソコンの前に移動しながら言った。前日分の勤怠で、事前に申請していたのと実際に働いた時間に誤差が出ていた場合、修正が必要になる。その入力は私達の仕事だ。

「あら、いいの?じゃあお願いします。この次は私が致しますわ。」

 金子さんは始めから入力する気などさらさらないくせにいつもそんな言い方をした。

 ただの帳票入力で難しいことなど1つもない。眠っていてもできるようなことなのに苦手意識があるらしかった。
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