ロマンスにあけくれる
「え、都裄くん、鍵、」
「花穂さん用事あるんでしょ。僕が返しとくから、はやく行きなよ」
「……素直に任せて、後で弱味を握ってくるとかのオチはない?」
「僕を一体なんだと思ってんの……」
ぷらぷら鍵を持って揺らす都裄くんの長めの前髪の隙間からちらりと見え隠れする瞳は、確実に据わっていた。
「いや、だって、さっきから意地悪そうな人ムーブを出してたから……何かの罠かと思って……」
「僕そこまで用意周到ではないんだけど」
はあ、とため息をついた都裄くんは、一緒に日誌まで掻っ攫っていく。
「あ、」
「ほら、はやく。僕が閉められない」
口調や声音からは、つっけんどんな雰囲気しか感じ取れない。
けれど、言葉だけは、確かに淡いやさしさを纏っていたような気がする。
「ありがとう、都裄くん」
「……別に、お礼言われるほどのものでもないし。僕も、スマホ、拾ってくれてありがと」
背後からかけたお礼の言葉に、ぽそぽそと返ってきたのは、投げ返されたお礼の四文字だった。