ロマンスにあけくれる
その時、ずぼっとようやく踵が入ってくれた。もしかしたら、すこし小さくなってるのかも。
「じゃあ都裄くん、鍵と日誌、お願いするね。また明日」
「………花穂さん、」
「ん?」
一歩、二歩、と背を向けて歩き出した時、追いかけるように言葉が飛んできて、振り返った先で。
片手に鍵と日誌を気怠げに抱えている都裄くんは、スクバを抱え直すと。
「………高嶺の花、って言ったのは取り消すけど、狙うって言ったのは、取り消さないから」
「え?」
「それだけ。じゃね」
「あ、ちょ、」
ぽかん、としてる間に、そうそうに話を切り上げてすたすたと廊下の奥に進んで行ってしまった都裄くん。
放課後の学校。夕暮れの人気のない下駄箱にて。
なんだか告白まがいのことを同級生に宣言されてしまう、なんて、まるで─────
─────まるで、そう。
ありきたりで王道なロマンスが始まる序章のような、なんて。
「……あれ?でも、狙う、とは言われてないような……?」
……やっぱり、気のせいかもしれない。