ロマンスにあけくれる
はじめての舌打ちだったけど、都裄くんの反応を見るに、悪くない滑り出しだったらしい。
「よし。治安悪め系女子への一歩を無事踏み出した」
「無事踏み出さなくていいから。むしろ踏み外して」
どうやら都裄くんにとっては、わたしが治安悪め女子になることは推奨しかねるらしい。なぜ。
「花穂さんにも、いちお保っておかなきゃならない体裁とかないの?」
「え?特には」
「ないんだ……」
階段を絶妙な速さで駆け上がり、もう大丈夫だろうと廊下からはふたりともゆっくり歩き始まる。
「わたしにも、ってことは、都裄くんにはあるんだ。保っておかなきゃいけない体裁」
「……花穂さんって、変なところ鋭いよね」
「心外な。わたしはいっつも鋭いよ」
「じゃあ、なんで他人から自分に向けられる好意には気づかないの」
歩きながら、ふと落とされた言葉に、思わず足を止めそうになった。