ロマンスにあけくれる



はじめての舌打ちだったけど、都裄くんの反応を見るに、悪くない滑り出しだったらしい。



「よし。治安悪め系女子への一歩を無事踏み出した」

「無事踏み出さなくていいから。むしろ踏み外して」



どうやら都裄くんにとっては、わたしが治安悪め女子になることは推奨しかねるらしい。なぜ。



「花穂さんにも、いちお保っておかなきゃならない体裁とかないの?」

「え?特には」

「ないんだ……」



階段を絶妙な速さで駆け上がり、もう大丈夫だろうと廊下からはふたりともゆっくり歩き始まる。



「わたしにも、ってことは、都裄くんにはあるんだ。保っておかなきゃいけない体裁」

「……花穂さんって、変なところ鋭いよね」

「心外な。わたしはいっつも鋭いよ」

「じゃあ、なんで他人から自分に向けられる好意には気づかないの」



歩きながら、ふと落とされた言葉に、思わず足を止めそうになった。


< 29 / 46 >

この作品をシェア

pagetop