旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
 新婚旅行を数日後に控えた週末。美咲はまた聡一に抱きしめられて、甘いひとときを楽しんでいた。

「美咲さん、新婚旅行もうすぐですね」
「はい」
「楽しみですね」
「とっても楽しみです」
「きっとあなたと二人なら何をしても楽しいのでしょうね」
「私もそう思います」

 まったくその通りだ。聡一はいつも幸せな気持ちにしてくれるから、彼といて楽しくなかったことなんてない。

「美咲さん。非日常の中で、あまりにも楽しいと、もしかしたら雰囲気に流されるということもあるかもしれません」
「え?」

 話しの方向が急に変わって、美咲は訝しく思った。

「私はそれで美咲さんが後悔するようなことにだけはなってほしくないと思っています。それに、意識しすぎて旅行を楽しめなかったら元も子もありません」

 美咲の考えすぎだろうか。それとも最近それを意識していたからだろうか。聡一のその言葉はとても重要なことを言う前触れのように感じられて、美咲はかしこまって返事をしていた。

「はい」
「ですから、旅行前にもう一歩先へ進んでおきましょうか」
「それって……」
「大事な一歩ですから、二人で暮らすこの場所がいいはずです。ね?」

 たぶん間違っていない。美咲もずっと考えていたことを聡一も考えてくれていたのだろう。そして、聡一は勢いに任せてそれをするのではなく、日常の中で進みましょうと提案してくれているのだとわかった。

 相変わらず美咲への気づかいに溢れている。大事にされすぎて、美咲はもう聡一から逃れられる気がしない。でも、それでいい。ずっととらわれていたい。彼が示してくれたその一歩を踏みだしたくてたまらない。彼の言葉が嬉しくて、早く早くと気が急いてしまう。続きの言葉が欲しくて、美咲は聡一の腕をきゅっと握りしめた。
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