旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
「聡一さん!」

 病院の外に立っている聡一を見つけて美咲は急いで駆け寄った。

「美咲さん、すみません」

 その言葉に美咲は勢いよく首を振って答えた。聡一をよく見ると額にガーゼが当てられている。おそらくそこを打ったのだろう。それ以外は特におかしなところはないように見える。

「こんにちは。中島です」

 聡一の隣に立っていた男性に声をかけられた。名前を聞いて、電話で聡一のことを教えてくれた同僚の人だとわかった。

「あ、こんにちは。妻の美咲です。あの電話ありがとうございました」
「いえいえ。私が送り届けてもよかったんですが、奥様があとでお聞きになったらご心配なさるだろうなと思いまして。私が無理やり電話をかけさせたんです」
「そんな。電話いただけてよかったです」

 美咲はこの人の気づかいに感謝した。連絡をくれて本当によかったと思う。

「ほら。仏坂さん、言ったでしょ? 早く言ったほうがいいって」
「そうですね。ありがとうございます。美咲さんも来てくださってありがとうございます」
「来るのは当たり前です! 本当に心配したんですから」
「すみません。でも、額を少し切っただけで他には何もないので大丈夫ですよ。ちゃんと診察もしてもらっていますから」

 医師の診察を受けているなら一応安心ではあるだろう。それでもやはり頭を打っているなら心配は拭えない。

「はい……でも、頭打ったなら安静にしないと」
「奥さんの言う通りです。今日は一人で歩いちゃだめですよ。二~三日は安静にするように言われたんですよね?」
「そうですね。ちゃんと安静にしています」
「じゃあ、あとは奥様にお任せしますね」
「はい。本当にありがとうございました」
「いえ、それでは」

 去りゆく中島にもう一度礼を言い、聡一と二人で見送った。

「聡一さん、本当に大丈夫なんですよね? 気持ち悪いとかそういうのもないんですよね?」
「はい、大丈夫ですよ」
「あの、もし途中で具合悪くなったりしたら、すぐに教えてくださいね」
「はい。そのときはちゃんと教えます」
「はい。じゃあ、帰りましょうか」

 二人はゆっくりと自宅に向かいはじめた。
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