旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
「美咲さん、ありがとうございます。家のこと全部お任せしてすみません」
「いいんです、そんなことは」

 美咲の声は震えていた。やることがなくなるともうダメだった。電話を受けたときの恐怖が蘇ってきて、美咲は思わず涙をこぼしていた。

「美咲さん?」
「本当に心配したんです。頭打ったって。私、祖父をそれで亡くしてるんです。だから、いくら大丈夫って言われても心配で」
「そうだったんですね……ご心配おかけして本当にすみません。今は何ともありませんよ。もし何かあればすぐに言います。約束しますから」
「はい……」
「本当にすみません」

 聡一が美咲を宥めるように優しく美咲の頭を撫でてくれる。美咲はしばらくそのまま撫でられていたが、美咲を撫でてくれる聡一のその手を取ると、ある決意を持って聡一を見つめた。

「私、全然わかってませんでした。全部当たり前だと思ってた」
「美咲さん?」
「このままだと後悔するって痛いほどわかりました」
「え?」
「聡一さん」
「はい」

 美咲は一度深呼吸をしてから、ずっと言いたくて言えなかったことをとうとう口にした。

「好きです。聡一さんが好き。好きなんです。ずっと前から聡一さんが好き」

 ようやく、美咲はようやくその想いを口にすることができた。最初の一言さえ言ってしまえば驚くほど簡単だった。なんで言えなかったのかわからないくらいだ。

「美咲さん……」
「私、聡一さんのこと好きだって言えてないことに気づいて、ずっと言わなきゃって思ってたんです」
「もしかして、言いたくて言えないこととはそれですか?」
「はい……言いたいのに上手く言えなくて、だから本当は結婚一周年の日に言おうと決めてました。でも、今日、その日が当たり前に訪れる保証なんてないって気づきました。だから、すぐにでも言わなくっちゃって」
「うん」
「聡一さん、好きです。大好きです」

 今度は恐怖ではなくて、想いを伝えられた嬉しさで涙がこぼれ落ちる。聡一は握られている手とは反対の手で、優しく美咲の涙を拭ってくれた。
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