旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
「美咲さん、改めて、今日はありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございます」

 美咲はしっかりと頭を下げて礼をした。どう考えても礼を言うのは美咲だ。これほどまでに素敵な人物と見合いしている状況が未だに信じられない。

「こんな素敵な方がお見合いを受けてくださるなんて、とても光栄です」

 いや、それはあんただ! と突っ込みたくなったが、それはどうにか堪えて柔らかい表現で返した。

「とんでもないです! 聡一さんのほうが素敵でいらっしゃいますから」
「ふふっ、ありがとうございます。折角いただいた機会ですし、お互いのこといろいろお話ししましょうか」
「はい、ぜひ」
「美咲さんは読書が趣味でいらっしゃるんですよね?」
「……あー、はは。まあ、本を読むといえば、そうですね……」

 美咲は思わず苦笑いを浮かべた。こんなことなら釣書にもっと違うことを書いておくんだったと冷や汗が出る。美咲の釣書には趣味は読書と書いてあるわけだが、美咲が読むのは漫画ばかりだから、一般的な読書とは違うだろう。まったく小説を読まないというわけでもないが、それでも漫画のほうが大半を占めている。だから、あまりそこに突っ込まれたくなかった。

「私も読書が趣味でして、時間ができると本ばかり読んでしまうんです。美咲さんはどういったジャンルの本がお好きですか?」
「えーと、その……恋愛?」
「恋愛小説ですか? すみません、私はそのジャンルには疎いもので。おすすめのものがあったらぜひ教えていただきたいです」

 聡一は相変わらずの優しい微笑みを浮かべている。そんな表情で見つめられては罪悪感が半端ない。どんどんいたたまれない気持ちになってくる

「そうです、ね……はい……あの……あの……」

 美咲がはっきりしないものだから、聡一は不思議そうにこちらを見ている。

「ごめんなさい!」
「え?」
「その、恋愛小説じゃなくて、恋愛漫画なんです。私が読むのは。本っていっても読むのはもっぱら漫画ばかりで……すみません、読書が趣味なんて言って……見栄を張りました」

 聡一は何度か目をパチパチと瞬かせたあと、やはりまたあの柔和な微笑みを浮かべて、優しく声をかけてくれた。

「あはは、そうだったんですか。そんな謝らないでください。漫画も立派な読み物でしょう? 読書が趣味で間違っていませんよ。では、おすすめの恋愛漫画なら教えていただけますか?」
「……はい!」

 そのあとは美咲のおすすめの漫画の話や普段美咲が見ているドラマの話ばかりをしていた。結局、聡一の話はほとんど聞かないまま貴重なお見合いの時間は終わりを迎えてしまった。
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