敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
私の顔にかかった長い髪を指で除け、強引に口づけてくる。
もう私の知っている要さんではない。ここからは私の知らないひとりの男だ。腕を首に絡め、もっともっとと唇を求める。
首筋や胸元に赤い痕を散らされ、気づけば吐息が漏れていた。
無我夢中で痕をつけて、後日罪悪感にさいなまれるのではないだろうか。そんな心配をしてしまい、少し笑った。

「集中できない?」
「いえ」
「じゃあ、俺だけを感じていてくれ」

そんな甘い言葉を、あなたは口にできるんですね。女性をとろけさせる言葉も、技巧も、私の知らない要さんだ。

「今夜は俺以外のことは忘れろ」
「ん……はい」

唇で、指で、甘く啼かされ、私は要さんに抱かれた。一晩かけてじっくりと。

明け方、まどろみの狭間で夢を見た。岩切製紙に入社してきた時分の記憶だ。
副社長の要さんが通りかかるたびに胸が騒いでいた、秘書課に配属されたばかりの私。まさかその数ヶ月後に、彼の秘書に抜擢されるとは思わなかったのだ。
近くにいれば要さんは仕事の鬼で、私にはまったく気を遣わない。離れて見ていた方が王子様に見えたなと思いながら、彼の隣に立つ資格を得られたのが嬉しかった。

私はただただ、三年と少し、要さんに恋をしていたのだった。


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