敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
1.社長と秘書



「それではあらためてよろしくお願いします」

岩切要の声はよく通る。適度に低くて耳なじみのいい声だ。三年間、近くで仕事をしてきて、いつもそう思う。特に彼が取引先の人間に話すときの声音は穏やかで、まさに好人物といった性格が感じられて好きだ。

「岩切副社長、よろしくお願いいたします」

取引先の社長、副社長、営業部長がそろって頭を下げる。要さんは笑顔で頷いた。

「お疲れ様でした。鮮やかでしたね」

取引先から出て、駐車場に戻りながら私は要さんに声をかけた。要さんが彼の思うままに仕事を進め、契約締結の流れに持ち込んだのを、後ろに控えて見ていたのだ。

「ああ、まあこんなものだろう。向こうからしたら岩切製紙の持ってくる仕事は大きい。多少、無理はしても断らないだろうとは予想していた」
「要さんが直接来社して、よどみない弁舌で説明されたら、誰も断れません」
「副社長なんて、そういう役回りだ」

そう言って少しだけ口の端を持ち上げる要さん。秘書の私の前だと、客相手とは違いぞんざいな口調になる。私相手には気を遣わない。それは私が彼の特別なのではなく、ただの秘書だからだ。

要さんは岩切製紙株式会社の御曹司。次期社長だ。現在は副社長の肩書を持っているが、いつも仕事の最前線にいる。直接、業務に関わらないと見えないものもあるという信念があるからだ。
仕事熱心で人間的に魅力あふれる要さんは、きっと立派な社長になるだろう。そばに仕えていてそう感じる。私、高垣都子(たかがきみやこ)は岩切製紙株式会社で、彼の秘書業につき三年と少しになる。
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