敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
その後、要さんは定時を少し過ぎたあたりで仕事を切り上げ、簡単に身なりを整え猪川家のパーティーへ向かった。社用車で送るのも私の仕事だ。

「帰りは何時になるかわからないから、ひとりで帰る」
「ええ、そうなさってください」

仮にも婚約者と会うのだ。パーティーとはいえ、その後にふたりきりで過ごす予定が入れば、待っているのは野暮というもの。猪川家の用事のときは、終了を待たないようにしている。
赤坂のホテルに到着し、ロータリーに車をつけると、エントランスから女性がひとり出てきた。この社用車を知っていて、待ち人を出迎えに来たのだ。

「麻里佳さん、お迎えに出ていらしてますよ」
「そうだな」
「早く行ってさしあげてください。秋の夜は冷えます。肩の出たドレスでは寒いでしょう」
「わかってるよ」

そう言って助手席から降りる要さんが何を考えているのか私にはわからない。ただ、自動ドアの手前で麻里佳さんと合流した彼の顔は、優しく穏やかな好青年のもの。婚約者の笑顔に応えるその様子には親愛を感じた。
彼がちらりとこちらを見て、それから麻里佳さんとホテルの中に入っていく。それを見送ってから、車を発進させた。
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