敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
「麻里佳と連絡がつかないままだ」

祖父を送り出すと夕方になっていた。普段なら夕食の準備を始めたり、大地をお風呂に入れたりする時刻だが、麻里佳さんのことが気になった。この事態を麻里佳さんは知っているのだろうか。ほのかちゃんと不自由な状態に陥っていないだろうか。

「スマホを取り上げられているのかもしれないな」
「あの、麻里佳さんの恋人を、要さんは知っていますか?」

私の問いに、要さんは頷いた。

「ああ。親しく話すような間柄じゃないが、仕事上何度も顔を合わせている。蔵多(くらた)という男性だ。年齢はおそらく四十代前半、猪川社長の部下で広報部の部長をしている人だ」

麻里佳さんと私が同じ二十七歳になる年齢だから、一回り以上も年上だ。年齢差や、彼の役職の重要さもわかっているからこそ、麻里佳さんは両親に話せなかったのかもしれない。

「麻里佳さんの恋人だって、彼女と連絡がつかなくなって不安に思っているんじゃないでしょうか。彼に会って、今後のことを話すのはどうでしょう」
「俺が説得してくるということか」
「はい、麻里佳さんとほのかちゃんをこのままにしておける男性なら、あまりに無責任すぎます。要さんの話術なら、うまくそこをつけるのではないしょうか」

我ながら、彼の口八丁に期待した言い方だとは思っているが、社長と秘書という間柄だからこそわかることもある。
要さんは商談成功率百パーセントと言えるほど、言葉が巧みなのだ。
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