敏腕社長との秘密の身ごもり一夜～身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました～

しかし蔵多さんに暴力が及ぶ前に、要さんが猪川社長を背後から羽交い絞めにした。
私の隣から猪川社長に駆け寄ったスピードは速く、判断も早ければ反射神経もいいと驚いてしまった。

猪川社長は悪態をつきながらじたばたと暴れるが、上背もあり力も強い要さんの拘束をふりほどけない。

「あなた、もうやめて。要さん、離してやってちょうだい。もう暴れさせないから」

暴力沙汰に慌てた猪川社長夫人がすがりつき嘆願してくる。要さんは頷いて警戒しながら腕を緩める。解放された猪川社長の腕を代わりに夫人がつかんだ。
猪川社長は怒りと興奮でめまいでも起こしているのか、ふらつく足取りで、もう暴れることはしていない。

「お父さんとお母さんが彼に何をするかわからないから、ずっとほのかの父親を明かせなかった。だけど、要さんと都子さんに迷惑をかけるならもう許せない。私を部屋に閉じ込めて、勝手に慰謝料請求をしていたなんて！」

麻里佳さんに助け起こされた蔵多さんが沈痛な表情で言う。

「麻里佳さんとは真剣に愛し合っています。ほのかも僕が守りたい。だけど、猪川社長へのご恩義から何も言えませんでした。今は、そんな自分を情けなくふがいなく思います」

蔵多さんが差し出した封筒には辞表の文字が見えた。猪川社長に向かって差し出す。

「猪川グループを退職します。麻里佳さんとほのかと三人で生きていきたいと思っています」