敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
麻里佳さんは心を動かされているようだった。
蔵多さんが麻里佳さんに寄り添い、意志を確認するように覗き込んだ。少しの間があって、麻里佳さんが顔をあげた。

「場所と日を変えて、要さんが立ち会ってくれるなら……考えたい」
「俺でよければいくらでも。猪川社長、よろしいですか」

言葉が出てこない猪川社長の代わりに夫人が頷いて答えた。

「それで結構です。あなた、もう帰りましょう」

猪川社長夫妻はそそくさとマンションを後にした。夫人のほうだけが私に会釈をしたけれど、社長はショックが重なって放心状態といった様子だった。

「要さん、都子さん、何度も何度もご迷惑をかけてごめんなさい」

部屋に残った麻里佳さんが謝罪した。泣きじゃくるほのかちゃんは蔵多さんの腕の中に移動していた。
蔵多さんも私たちに謝罪する。

「こんな形でのご挨拶になってしまいすみません。本当に申し訳ありませんでした。そしてありがとうございました。岩切社長のおかげで先に進めそうです」

それ以上の話はできなかった。
多くの人に囲まれ、驚いたほのかちゃんがもう限界だったからだ。何をやっても泣き止まない。
さらに泣き声が伝染したのか、大地も大きな声で泣き出した。ベビーふたりの意志が優先、今日は解散となった。話し合いの期日だけ、あとですり合わせるようだ。
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