敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
「都子、ひとりにしてすまなかった。猪川社長夫妻に何かひどいことを言われたんじゃないか?」

ようやく家族三人となった部屋で、要さんは大地をあやしながら、私を心配そうに見つめる。

「いいえ。たいしたことは」

私は言葉を切って、要さんに微笑んだ。

「麻里佳さんと猪川社長夫妻に話し合いを提案した要さん、さすがでした。思うところだってあったでしょうに」
「まあ、半分は打算だ。岩切製紙と猪川グループとの仲はどちらにしろ終わりだろう。それなら禍根を残さない方がいいと思っただけ。保身だよ」

悪ぶった言い方をしているけれど、麻里佳さんの幸せを願っての提案に違いない。実の親子が、本音を伝え合えずに決別してしまうのはあまりに悲しい。

「猪川グループとの関係が終焉を迎えたら、どれだけ影響が出るでしょう。進んでいる企画は頓挫、すでに取引のある猪川グループでの仕事も切り替えになってしまうんでしょうね」
「仕方ない。それがわかった上で行動している」

そこまで言って、要さんは真剣な顔で私を見た。

「一応、言っておくが、本当に都子のせいじゃないからな。責任を感じないでくれ」
「ええ、わかっています」

私にできることはうつむくだけじゃない。彼の隣で支えること。

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