敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
『岩切社長、要さんの方だけど、猪川グループとの関係を切ったんだよ。婚約者と別れたとかで。そのせいで猪川グループ関連の仕事が全部なくなった。損害がすごい』

想定はしていたことだ。もちろん、要さん自身も。
猪川家との揉め事は解消したとはいえ、ここまで岩切家とこじれたあとで互いに信頼関係を維持するのは難しい。双方の申し出で事業は縮小か撤退。他社に依頼できるものはそうしているが、そもそも岩切製紙がほしかったのは猪川グループの観光業関連のノウハウである。

神野からのメッセージは続く。

『同期たちは、真面目に転職を考えてる。それで、高垣はどんな業種に転職したのかなと思ってさ』

あまりに不穏な内容だった。神野は同期に愚痴を言いつつ、転職情報収集くらいの気持ちでメッセージを送っているが、私にとっては古巣であり夫の会社の状況だ。聞き逃せない。
要さんはいつもリラックスして見えたし、私の前で岩切製紙の危機をおくびにも出さなかった。それを水臭いと思うし、知らないで幸せを貪っていた自分が恥ずかしくなった。
要さんは気にするなと言ったけれど、猪川グループとの関係破綻に無関係ではないのだから。

『神野、近いうちに会えるかな。私、都内にいるから、いつでも都合がつくよ』

神野から詳しく話を聞こう。要さんが話してくれない内容を聞いておきたい。
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