溺愛社長とお菓子のような甘い恋を

５．いざ軽井沢へ！

パーティー当日。

一泊分の荷物を持って、ドレスアップをしてマンション前で待つ。
するとすぐに黒塗りのベンツが横付けされた。
出てきたのは、高級そうなフォーマルスーツを着込んだ神野社長だ。
黒塗りベンツにスーツでこのルックス。
そこら辺の芸能人やモデルなんかよりも格段にかっこいい。
車もこの前のとは違った。

でも……。
どうしてだろう……。
確実にどこかの若頭にしか見えない……。その証拠に、家の前の通りを通る人たちが何事かとチラチラと注目している。

「乗れ」
「失礼します」

後部座席に荷物を置いてそのまま乗ろうとすると、「なんでだよ」と突っ込まれた。

「恋人が後部座席に乗っていたらおかしいだろ」
「そうでした」

ハハハと笑ってごまかす。
改めて助手席に乗ると、フワッと社長のいい香りがする。
この前の車と同じ香り……。
プライベートな車なので、余計に社長の匂いに包まれている感じがした。
凄く落ち着く香りだな……。

「軽井沢まで２時間くらいで着くだろう。寝ていてもいいぞ」
「いえ、大丈夫です」

私は横目で社長をちらっと見た。
この前の時もそうだったんだけど、男性の運転姿ってなんだかドキドキするんだよね。
隣でどう振舞っていいのかわからなくなる。
しかも今日はビシッと決まっているから尚更いつもよりカッコいい。
チラチラと見ていたら、社長が視線に気が付いた。

「どうした？　酔ったか？」

それに首を横に振る。
酔うどころか快適だ。社長は運転がうまい。

「酔ってないので心配ないです。あの、今日のパーティーって……」
「あぁ、主役は立木秀明っていって立木カンパニーの次男だ」
「立木カンパニーって、確か人材派遣事業を持つ会社でしたよね」

名前は聞いたことがある。CMでもたくさん流れているし、なかなかの大手企業だ。
そこの次男と友人とはさすがだな。

「大学時代から時々連絡は取っていたけど、ここ数年はご無沙汰だったんだ。それが急に連絡来たかと思えばこれだ。あ、そうだ俺のことは名前で呼べよ」
「えっ！？」
「当り前だろう。どこに社長呼びする恋人がいるんだよ。敬語も禁止」
「そうですけど……」

だからって、急には呼べないって。
敬語も禁止だなんて無理だよ。上司と部下なんだから……。
困っていると社長は催促してきた。

「ほら」
「神野さん……」
「なんで苗字なんだよ」
「ですよね。……海斗さん」

ぼそっと呟くと、運転している横顔が満足そうにニッと笑った。

「合格」

大きな手で頭を撫でられた。
少しだけドキッと胸が跳ね上がる。
誤魔化すようにお茶を飲んだ。
そこからは他愛ない話をして、気が付けばあっという間に軽井沢についていた。

「さぁ、到着だ」
「え？」

自動で門が開き、社長は器用に車を止める。
どうみてもホテルではない。
一軒家風の大きな邸宅だった。

「ここは？」
「うちの別荘」
「別荘！？」

別荘と軽く言える規模ではない。
車が三台は入る駐車スペースに、広い庭。邸宅も大きな洋館ほどはある。
さすがは神野フーズ……。
改めて神野社長の凄さを実感した。

「酒を飲むことになるだろうし、車ではいけないだろう。ホテルまでは仕方ないが、タクシーで行くぞ」

そういうと、私の荷物を持って玄関の中へ入れた。

「あっ」
「なんだ？　貴重品はそっちのパーティー用のバックに入っているんだろう？」
「あ、はい……」

頷くと、事前に呼んでおいたのかタクシーが別荘の前に到着した。
促されて乗り込む。
今さらながらに気が付いたんだけど……。
夜はどこかホテルでも取るのかと思っていたけど、荷物を家の中に置いたということはまさか社長の別荘に泊まるのかな？
まぁ、あれだけ大きいからさすがに部屋は別々だよね。
でもなんか少し緊張する……。
そんなことを考えていると、パーティーの行われるホテルへと到着する。
案内されて会場へ入ると、すでにたくさんの人が来ていた。

「おおー、海斗じゃん。久しぶりー」
「マジで海斗だー」

入り口付近にいた人たちが社長に気が付いて嬉しそうに声をかける。

「きゃぁ、海斗君だ。来るって本当だったのね」
「神野君が来るなんてラッキー」

そう言いながら女性たちも近寄ってきた。

「久しぶり」

社長も微笑んで軽く手を挙げた。
人気、あるんだなぁ。
女性たちなんてキャァキャァ言っている。

「よう、神野。来たか」
「立木。婚約おめでとう」

前から来たのは立木秀明。
想像よりもずいぶんと小柄だ。社長より、頭一つ分は余裕で低い。
ヒールを履いた私との方が目線は近かった。
立木さんは私に気が付くと、ニッと笑った。

「本当にパートナー連れてきたんだな」
「お前が連れて来いって言ったんだろう。花澄、こいつが立木」

‘花澄’
そう呼ばれてドキンと胸が鳴って、頬が赤くなりそうだったがそこは平静を装う。
恋人が名前を呼ばれたくらいでいちいち赤くはならないだろう。
うまく演じなければ。

「初めまして、大園花澄と申します。この度はご婚約おめでとうございます」
「どうも。花澄ちゃんっていうんだ。へぇ～、凄く可愛いね」

ニヤッと笑った立木がこちらへ手を伸ばした時、スッと神野社長が間に入った。