溺愛社長とお菓子のような甘い恋を
どこだろう、ここ……。
目を覚ますと、そこには知らない天井が見えていた。天井が高くて豪華な飾りが見える。
こんな高そうな照明なんてつけた覚えはない。
ゆっくり体を起こすと、頭がズキッと痛んだ。
「いたたた……」
しまった、昨日、飲み過ぎたな。
あのイケメン男性と話をしていて、タクシーに乗ろうと言われて……、それからどうしたっけ?
そこからの記憶が曖昧だった。上手く思い出せない。
周りを見渡し、さらに困惑する。
え……? なに……。
自分が今いるのは、自宅マンションのあのシングルベッドなんかではなく、キングサイズはあるだろう広々としたフカフカのベッド。
目の前の空いている扉から先に見えるのはソファーと埋め込み式テレビが備え付けてある、豪華な広いリビング。
どこをどう見ても自宅ではないことは明らかだ。
「えぇ〜……、どこよ、ここ……」
ベッドから下りようとしてハッと気が付いた。
私、バスローブ着ている!? うそ、なんで!? いつの間に!?
下着は着ていたが、白いバスローブが少しはだけており、慌てて整えた。
待って! え、服は? 服はどこにあるの!?
真っ青になりながらキョロキョロと見渡すと、ベッド脇のクローゼットにクリーニングタグがついたまま、私の服がかけられていた。
クローゼットには私の服だけがかけてあり、他は何もない。
「クリーニング……? なんで……、あっ……」
ここでようやく、自分がしでかしたことを思いだした。
そうだった……。昨日、バーで会ったあのイケメンがタクシーに乗せてくれようとした時に気持ち悪くなって……。
「そうだ、盛大に吐いちゃったんだ……」
私は青ざめてがっくりとうな垂れた。
しまった、やらかしてしまった……。
今まで吐くほど飲んだことはなかったが、昨日は半分やけ酒だった。悪酔いしてしまったのかもしれない。
ここまで思い出すと、あとは一気に記憶が蘇る。
そうだわ。それからその男性に近くのホテルに連れて行ってもらい、文句を言われながら服を脱がせられて……シャワーで洗ってもらった気がする……。
えっ!? ってことは、男性に裸を見られた!?
いや……、でも今下着は着けているし、洗って貰ったときもキャミソールとスカートは履いていた気がする……。
曖昧ながらも全裸ではなかったと安堵したのもつかの間。
「それから……、あれ?」
そこから記憶がほぼなかった。たぶん、寝てしまったのだろう。
「嘘でしょう〜……」
自分の呑気さに呆れて頭を抱えた。
私はため息をつきながら、顔をあげて再度周囲を見渡した。
昨日の記憶が確かなら、ここはホテルということか。
それにしても、豪華な部屋ね。ここしかとれなかったのかな? 費用請求されたらどうしよう……。
そっとリビングへ行くと、ラップにかけられたサンドイッチやフルーツ、飲み物など朝食と思われるものがテーブルに置いてあった。
そして部屋のカードキー。
2001、ホテルシエルトリトンと書いてある。
「シエルトリトンって、超高級ホテルじゃない!」
日本でも有数の高級ホテルで、海外の来賓や政治家などが多数利用するという有名ホテルだ。
えぇー!? そんなホテルの20階に泊まったってこと?
部屋も私が今まで泊まったことがあるような部屋とは段違いに豪華で広い。
窓の外を見ると周辺のビルが低く見える位に高く、遠くの景色まで見えるほどとても素晴らしかった。
ここはただのシングルルームなどではないことは、この部屋を見ればわかる。
「まさか、ここスウィートルームとかじゃないでしょうね……。ん?」
カードキーの横には小さな白いカードが置いてあった。
そこには綺麗な字で「必ずこの番号に連絡するように」と書いてある。
この番号って……。
裏を見て絶句した。
白いカードだと思ったものは、名刺だったのだ。名刺にはこう書いてあった。
「株式会社 神野フーズ 代表取締役社長 神野海斗」
その名前に青くなる。
「神野って……、あの!?」
神野フーズといえば、食品メーカーで業界最大手。海外にも知られており、知らない人はいない程だ。
そこの代表取締役社長!? 昨日の人が!?
「いやいや、若かったじゃん! まだ30代そこそこだったよ!? そんな人が社長なわけがない……」
嘘だ嘘だとブツブツと独り言を言いながら鞄を探し出し、スマホを取り出して検索をかける。
するとある記事が目に飛び込んできた。
「昨年春に先代が倒れ、急きょ長男である海斗氏が代表取締役に就任。先代は会長職に就くが事実上、経営は海斗氏が行うことになり先代は相談役になると思われる」
スクロールした先には……。
「嘘でしょう……」
そこには昨日バーで会ったあの男性の写真が載っていた。