溺愛社長とお菓子のような甘い恋を

ど、どこに目を向けていいかわからない!

社長の風呂上りは破壊的な威力を持っていた。

普段は前髪をあげて整えているのに、お風呂上りは無造作に下がっていて少し幼く見える。
Tシャツとズボンというラフな格好が、いつもとギャップを感じる。

さらには、お風呂上がりの漂う色気に、どこに目線を向けていいかわからなかった。

シンクに立っている私の背中越しに、冷蔵庫を開けて水を飲んでいた社長から、フワッといい香りがしてさらにドキドキする。

「大園」
「は、はい!?」
「俺、こっちで寝るから寝室のベッド使って。シーツは替えといたから」

寝室は別の部屋にあるようなので、こっちと言われるとソファーしかない。
さすがに社長をソファーで寝かすのは気が引けた。

「いえ、私がここで寝るつもりでしたから社長は寝室で寝てください」
「駄目だ。女性をソファーで寝かせたくはない」

そう言い切られても困ってしまう。
泊まらせてもらうのは私なのだし、そこら辺で寝るつもりだった。

「でも、流石に上司をソファーで寝させるわけにはいきません」
「俺だってお前をソファーで寝かせるわけにはいかないだろ」
「でも……」
「……じゃぁ、一緒に寝るか?」
「え?」

目を丸くして振り返ると、社長は私をじっと見つめていた。

今なんて?

ポカンとしていると、社長は私の前に立って見下ろしてくる。
その瞳は今までに見たことがないほどに、男の瞳をしていた。どこか熱を含んだまっすぐな視線に、心臓が大きく鳴る。

上司ではない。一人の男性としての目線だと気が付かないほど、私は子供ではない。

「あ、あの……、社長……?」
「ただ、一緒のベッドで寝たらここまで我慢していた俺の理性は吹っ飛ぶよ。それでもいいか?」
「理性……?」
「あぁ。好きな人と同じベッドに入るんだから、飛ぶに決まっているだろう」

好きな人……?
今、好きな人って言った? 誰が? 誰を?

「好きな人って……、どういう意味です……か?」

やっとの思いで声を絞りだすと、社長は表情を変えずに低く呟いた。

「お前のことだよ」
「私……?」

社長は私のことを好きな人って言ったの?

「……どうする? 嫌なら……」

ぶんぶんと首を振って、言いかけた社長の言葉を遮る。

どうしよう。声がうまく出ない。きっと今、私は真っ赤な顔をしている。
でも……。でも私も伝えなきゃ……!

「嫌じゃないです。わ、私の理性も……、きっと飛んじゃいます」
「花澄……」

社長――、海斗さんは私の名前を呟くとそっと抱き締めて、ゆっくりと唇を重ねてきた。

この前のような、触れるだけのキスではない。
もっと深く、味わって堪能するようにお互いの唇を感じるキスだ。

私もそれを素直に受け入れる。

「ん……、あ……」

舌を絡ませて、口の中も蹂躙される。

気持ちいい……。

海斗さんから思いが伝わってくるようだ。
私も伝えたいと、海斗さんの背中に腕を回す。

ピッタリと抱き合うと、海斗さんの熱とお腹にその高ぶりを感じて体の奥がゾクゾクする。

とろけてしまいそうだった。
そのまま溶けてしまうかと思った。

「ん……」

甘いキスに足の力が抜けそうで、海斗さんの服を縋るようにギュッと掴む。
すると、唇を離した海斗さんが私を抱き上げた。

「きゃぁ」

驚いて、首にしがみつく。

なんなく抱き上げた海斗さんは、廊下を進みとある部屋に入っていた。
暗くてよく見えないが、大きなベッドがある。

もしかしてここ……。

胸がドクンと高鳴り、身体の熱がさらに上がった。
ダブルの広さはあるそのベッドにゆっくりと降ろされ、上から見下ろされる。

心臓が飛び出そうだ。

「本当にいいのか?」
「はい……。私も海斗さんが好きです」

改めて言葉にするととても恥ずかしいが、しっかりと告げると海斗さんは嬉しそうに笑った。

そっと覆いかぶさり、服を脱がせながらゆっくりと私の体にキスを落としていく。

首、鎖骨、胸元、お腹……。

優しく甘い口付けに自然と甘い声が漏れる。

「花澄……」

吐息の合間に名前を呼ばれ、体の奥からゾクッと喜びを感じる。

海斗さんに名前を呼ばれただけなのに、どうしてこんなに嬉しいのだろう。

触れられたところが熱くて気持ちよくて身をよじる。

鍛えられた逞しいその体にしがみつくと、海斗さんはより深く体を重ねてくれた。
海斗さんの余裕がなさそうな息遣いに、切なくて愛おしくてたまらない気持ちになる。

その熱い瞳には、私だけが映っている。
それが幸せすぎてたまらなかった。

「好きだ……、花澄」
「私も海斗さんが……、好きです」

思いを伝えるだけで、海斗さんは激しくなる。
そうしてたっぷりと何度も愛されたことで、私は怖い思いをしたことなんてすっかり忘れていた。

それくらい、心も体も海斗さんの愛で満たされたのだ。


翌朝、カーテンから漏れる光で目が覚めた。
そっと横を見ると、海斗さんが気持ちよさそうに眠っている。

私たち昨日……。あれは、夢じゃないんだよね。
朝から幸福って、こういうことなんだ。

寝顔も綺麗だなんて羨ましいと思いつつ、私は海斗さんを起こさないようにベッドから降りようとする。

すると、グイっと腕を掴まれた。

「きゃぁ」

優しく引っ張られたが、勢いでベッドにコロンと転がった。
驚くと、海斗さんが肩肘をつきながら私ににっこり微笑んでいる。

あぁ、寝起きも色気が溢れていて直視できないっ。

「おはよう。どこ行くの」
「おはようございます。えっと……、お風呂場へ……」

そう言うと、ニッと口角を上げた。

あ、なにか悪いことを考えているな。

そう思った瞬間、海斗さんは私を抱き上げるとベッドから降りた。

「きゃぁぁ」
「一緒に入ろう」
「えぇっ」

嫌な予感は当たった。
お風呂場でまた、海斗さんに甘く食べられてしまったのだ。




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