溺愛社長とお菓子のような甘い恋を
海斗さんが戻ってきたのは、就業時間間際。
「お疲れ様です」
「お疲れ……」
目に見えて、海斗さんは疲れていた。
社長室の椅子にもたれるようにぐったりと座る。
「休憩しますか? 何か甘いものでも……」
休憩の用意をしようとすると、海斗さんは私を手招きした。
そしてソファーに座るよう促す。
向かいのソファーに座る海斗さんは私をじっと見つめた。
どこか探るような視線に自然と姿勢を正す。
「竹田と昼めし食ったことあるんだって?」
「え? はい」
「何か言っていたか?」
海斗さんは私を真っ直ぐ見つめたまま聞いてきた。
私が竹田さんと昼食を取ったことがあることまで調べているんだ。
結構、細かいことまで調べ上げているんじゃないだろうか。
もしかしたら私にも疑惑がかかっているのかもしれない。
「私も疑われていますか? 加担したとか……」
「いや、お前はそんなことしないだろう。ただ竹田と親しくしていた人は少ない。何か知っていること、聞いたこと、気が付いたことどんなことでもいい。教えてくれないか」
キッパリと否定してくれたことに安堵する。
「どんなことでもと言われても……。他愛ない話しかしていないんです。その日の天気とか夏休みの予定とか……、あ……」
「なんだ?」
「夏休みは彼氏とヨーロッパへ旅行に行くと言っていました。なんでも彼氏は夜に仕事をしているから今まで行けなかったって……」
「夜に仕事……」
海斗さんは体を起こして「そうか……」と呟いた。
翌日。
夕方、会議終わりの海斗さんから話があった。
「竹田に連絡がついて話が聞けた。彼氏に金を使ったと話していた。彼氏のために金が必要になって会社の金に手を出したと……。きっと相手はホストだったんだろうな。横領して貢いでいたんだろう」
「ホスト……。だから夜に仕事って言っていたんだ……」
「横領の金額が大きい。示談にはできないから、告訴になるだろう。そうなると、竹田は逮捕される」
「逮捕ですか?」
逮捕になるという事実に唖然とする。
この前まで笑顔で話をしていた人が逮捕されるなんて……。
海斗さんも深いため息をつく。
「しばらく忙しくなるな。スケジュール調整、頼んだ」
「はい……」
「大丈夫か?」
海斗さんは気遣うように聞いてくる。
「海斗さんこそ」
私なんかより、海斗さんの方がこれから大変だ。
「俺は……まぁ、何とかなるだろう。というか、何とかする。基本は顧問弁護士に任せるが……、退職しているとはいえ社名は報道に出るかもな」
頭をガシガシとかいて苦笑いする海斗さん。
いや……、笑うところではないよ……。
「とりあえず、今日はもう帰っていいから」
「わかりました。海斗さん、無理しないでくださいね」
「ありがとう」
海斗さんは微笑んでいたけれど、本当はとてもつらいはずだ。
会社の横領、社員の逮捕、これからでる報道にそれによる株価変動……。社長として考えなければいけないことは山積みだ。
竹田さんのことはショックだけど、海斗さんのことも心配だ。
その日は海斗さんから連絡はなかった。