溺愛社長とお菓子のような甘い恋を
9.久しぶりのデート
数日後、竹田さんが逮捕された。
やはり横領の理由が「ホストである彼に貢いでいた」ということだった。
真面目そうな竹田さんが実はホストにはまっていたということは、横領の事実とともに社員には衝撃だった。
逮捕とともに、神野フーズ元社員と報道にも出た。すでに退職していたので無職となっていたが、会社名がでてしまったのだ。
当然、会社の株価も下がり、臨時の株主総会まで開かれた。
海斗さんとともに私も忙しい日々を過ごしていき、全てが落ち着いたころには季節は冬になっていた。
「はぁぁぁ」
海斗さんは社長椅子に座って、大きなため息をつきながら窓の外を眺めた。
その顔は珍しく疲れていた。
自社ビルの最上階、窓の外に見える景色はこの地位だからこそ眺められる。
だからこそ、今回の件は堪えたんじゃないかな。
その責任の重さを痛感したのだろうと思う。
かける言葉が見つからないでいると、海斗さんがポツリと呟いた。
「若くてイケメンというのは罪だな」
「……はい?」
自惚れとも聞こえる発言にキョトンとする。
休憩で出すお菓子がお盆の上で揺れる。思わず落とすところだった。
「株主総会で、若いイケメンに会社が任せられるのかって言われた」
株主総会を思い出してみるが、そんなこと言われたかな?
まぁ、若い社長で大丈夫なのかという発言はあったが……。イケメンは海斗さんによる記憶補正というところか。
まぁ実際イケメンなのだが……。
「若くてイケメンだから年配者は心配になるかもしれませんけど、海斗さんは優秀ですから大丈夫ですよ」
一応、話に乗りつつフォローする。
きっと、こんな言い方しているが経営体制を指摘されたのは海斗さん的に痛かったのだろう。
前社長から会社を引き継いでまだ二年。
海斗さんが社長になってから今回の事件までは、業績も伸びたし経営も波に乗っていた。
就活生の就職したい日本企業のベストテンにも入ったほどだ。
そこまで引き上げたのも、海斗さんの手腕によるところが大きい。若いからと卑下するところではないのだ。
しかし、こうした事件が起きてしまうと世間の目は厳しくなりがちである。
「今日はお菓子部門から、糖質オフの試作品をいただきました。少し休憩して食べましょう」
「お、やっとできたか」
海斗さんは頬を緩めて椅子から立ち上がってソファーの方へ移動する。
「うん、うまい。糖質オフなのに甘く感じるのは香料なのか?」
「バニラエッセンスなんですかね?」
お、この顔は気に入ったな。
海斗さんの評価は良さそうで、後でお菓子部門の社員に教えてあげようと思った。
「お茶のお代わり入れてきますね」
立ち上がって、給湯室へ行く。
すると、後ろから海斗さんが付いてきた。
「どうし……」
「花澄」
海斗さんが後ろから抱きしめてきた。
「海斗さん?」
珍しい。休憩中とはいえ、仕事中はこうした過度なスキンシップは我慢すると話していたのに……。
振り返ると、海斗さんが甘えるように頬を寄せてくる。
「今日は金曜日だろう? うちに来いよ」
「行っていいんですか?」
「うん。俺には花澄が足りない」
軽く触れるだけのキスをしてくる。
就業時間にこんなことするなんて初めてだ。
きっと相当参っていたのかもしれない。
海斗さんは私を見つめると、再度キスをしてきた。今度は少し深めに。
「ここが会社じゃなきゃな……」
名残惜しそうな表情に、本当はもっとしたかったという気持ちが見え隠れした。
会社じゃなきゃ、ナニをしたというのですか。
海斗さんの残念そうな声に苦笑する。
横領騒ぎで、海斗さんは休日返上で忙しそうに働いていた。
邪魔はできないため、泊まりに行ったりもできなかったし、こうしてイチャイチャするのも久しぶりだった。
付き合いたてなのに、確かにお互いが不足している。
「私も、海斗さんが足りない……」
つい漏れた言葉に、海斗さんは強く抱きしめてきた。
その日は残業もせずに、二人で外食をして海斗さんの家まで行った。
先にお風呂に入っていると、海斗さんが後から追いかけるように入ってきた。
「海斗さん!?」
「いいだろう、別にいまさら」
そう言われると、確かに以前もお風呂場でしたことがあった……。
あれは初めて抱かれた時だ。思い出して顔が赤くなる。
でもでも、やはり恥ずかしいのは変わらない。
「顔が赤い……」
「海斗さんのせいです……」
海斗さんの手が怪しく体をまさぐる。次第に息が上がる。
恥ずかしいのに、変に気分が盛り上がってしまってそのままお風呂場で愛されてしまった。
それでも足りない海斗さんは、お風呂から出ると私をそのままベッドに連れていく。
「花澄……」
海斗さんの広い背中に腕を回す。抱き合うと、より深く繋がった。
海斗さんの熱が、私の中をかき乱す。ただ甘い声しか出なかった。
久しぶりに濃厚な恋人同士の時間を過ごしたと思う。
忙しかった分、触れ合いが足りなかった私たちはその穴を埋めるかのように何度も抱き合った。
海斗さんは激しく求めてくるくせに、壊れ物のようにとても優しく大切に扱うから、なんだかくすぐったい気持ちになる。
愛されているって感じる。
「今回、花澄がいてくれてよかったよ」
「そうですか?」
腕の中でウトウトしていると、海斗さんの穏やかな声が頭の上から聞こえてくる。
私は役に立てていたのだろうか。何も出来なかった気がするけど。
「花澄がそばに居てくれるってだけで心強かった。ありがとうな」
「なら良かった。海斗さんの力になれて嬉しいです……」
ホッとした気持ちのまま、心地よい眠りに誘われて目を閉じた。