溺愛社長とお菓子のような甘い恋を

――――

話は平行線のまま、ついに海斗さんのお見合い前日になってしまった。

「明日、迎えに来るからな」

いつものように会長は海斗さんに念押しに来る。

「行かないと言っているだろう」
「バカなこと言うな。今さら先方に断りなど入れられん」
「親同士が話の流れで決めたことなんだろう。電話一本で断り入れられるだろうが」

いつものように、ソファーに座りながら言いあう二人にお茶を出す。
しかし会長はすぐにソファーから立ち上がった。

「何が何でも連れていく。俺のメンツをつぶすな。明日は支度して待っておけよ」

出ていく会長を追いかけて、エレベーターを呼んだ。
会長は私に視線を向ける。

「……新しい会社は決めたかね?」
「いいえ……。しばらくは、ゆっくりしたいと思っています」
「ほう……」

私からそんな答えがあるとは思わなかったのだろう。少し驚いた様子だった。

「一年後か二年後、少し先になるかもしれませんが、会長にご連絡したら新しい会社を斡旋してくださいますか?」

ダメ元で聞いてみた。すると、会長はあっさりと頷く。

「いいだろう。いつでも連絡しなさい」
「ありがとうございます」

私は深々と頭を下げた。

良かった。妊娠したのだから、すぐには新しい所で働けない。働いてすぐに産休だなんて、迷惑でしかないもんね。

子供が保育園に入れるくらいになったら、会長に連絡していい会社を斡旋してもらおう。
会長のリストにあった会社なら、シングルマザーになっても十分食べていける。
それまでは貯金を崩すか、親に頼み込んで実家に帰るしかないだろうな……。

「明日のことは気にするな」

戻ってお茶を片付けようとすると、海斗さんがため息をつきながらそう言った。

「……行ってはどうですか?」

私の言葉に海斗さんは目を丸くした。

「え……?」
「お見合いしなきゃいけない状態ですよね。行くだけ行けばいいと思います」
「何言っているんだ、花澄」

海斗さんは不快そうに眉を顰めた。

それは、そうだろう。恋人からお見合いしろなんて言われているんだから。
でも、会長のあの様子だともう引かないだろうから、お見合いしないという選択肢はない気がする。

「自分が言っていることわかっているのか?」
「わかっていますよ。でも、もうどうしようもないじゃないですか。お二人が揉めているの見るの嫌なんです。……疲れました」
「花澄……」
「海斗さんだってわかっているでしょう? 会長は引くに引けなくなっている。とりあえず、明日は行かざるを得ないだろうって」

私は鋭く言い返すと、海斗さんは口をつぐんだ。図星か。

私は軽く苦笑した。

「じゃぁ、仕事だと思って行ってきてください」
「……嫌だと言ったら?」
「仕事、放棄するんですか?」
「仕事じゃないだろう?」
「仕事だと思えばやりやすいです。接待ですよ、接待。それに、行かないともう収集着かないでしょう?」
「……」

ムスッとしているが、これはわかってくれたようだ。
というか、海斗さんだってもともとわかっている。あがいていただけなんだ。

本当はこんなこと言いたくない。
胸が痛くてたまらない。

でも、私は気にしていないという風に笑顔を向けた。

会長と海斗さんは本当によく似ているな。
会長は会社優先、海斗さんは私優先でお互い引けなくなっている。

でも、私はそんな二人から離れる決意をした。

海斗さんが大好きだし、真理愛さんと結婚されるのは胸が張り裂けそうなくらい嫌だけど、今の私の優先はお腹の子供だ。
この子を守るためなら、海斗さんと離れる決意もしなければならない。

この子を守れるのは私だけ。

だから最後まで海斗さんには笑顔を向けよう。


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