溺愛社長とお菓子のような甘い恋を
13.光が差す方へ
それから海斗さんは毎日のようにお見舞いに来てくれた。
忙しいから毎日はいいのに、と断っても必ず来る。
「俺が癒されに来ているだけ」
そう嬉しいことを言ってくれるのだ。
話すことは他愛ないことばかり。
肝心なことは教えてくれない。そこはわかっていた。
だから、会長を説得したのか、お見合いの話はどうなったのか……。
「どうなったか教えて下さい」
気になっていたからズバッと尋ねたが、全く教えてくれなかった。
しつこく食い下がったら、苦笑気味に「無事に退院出来たら全部話すから」と言われてしまった。
そこからはこの話は一切答えてくれない。
わかっている。海斗さんは、話すことで私の負担になるだろうと思っているんだ。
きっとストレスをかけないようにしてくれたんだろう。
でも気になるよ。
かといって、何も言ってくれないのだから諦めるしかない。
退院したら絶対言わせてやる!
そんな日々が二か月ほど続き、安定期に入った頃、私は無事に退院できた。
「足元気をつけろよ」
「うん」
海斗さんが迎えに来てくれて、自分のマンションへ戻る。
久しぶりの自宅は、海斗さんが定期的に掃除をしてくれていたので快適だった。
やっぱり家が一番だ。
お茶を飲んでホッと一息ついた所で、私からずっと気になっていたことを切り出した。
「で、結局どうなったんですか?」
私の質問に海斗さんは「言うと思った」と笑う。
「うん。まず、お見合いの件だけどあの後、横川家の方から断りの連絡があった」
「え?」
それには驚いた。
真理愛さんは結婚してもしなくても、どちらでもいいと話していた。
でもどちらかというと、本当は海斗さんと結婚するつもりで私に愛人話を持ってきたのではないかと思う。
好きとかそういうのはなくて、ただ政略結婚だとわかっていたから、結婚させられるなら条件をつけてやろうとしたのではないか……と。
それが、向こうから断ってきただなんて……。
「俺の煽った言葉もだが、なにより、二人の時に真理愛さんにいかに花澄が好きかを延々と話したことが、相当気持ち悪かったらしい」
「……どういうことですか?」
目が点になる。海斗さんは苦笑いだ。
そういえば、前に『あなたは面倒な人ですね』と真理愛さんに言われたと言ってたな。
え? もしかしてお見合い中、ずっと私とののろけ話を聞かせ続けていたの?
あの淡々とした真理愛さんが苦痛に感じるほど、延々と?
海斗さんのキツイ言葉がキッカケではなく、生理的にコイツ気持ち悪いって思われたってこと?
ポカンとしていると、海斗さんは目を逸らしながら「相手に話す隙を与えないほど惚気ける作戦だったんだよ」と言い訳がましく言った。
そしてわざとらしくコホンと咳をする。
「まぁ、それ以外にも横川家の方で俺たちの調査をしていたらしい」
「調査?」
「花澄の妊娠も知っていたよ。跡取りとか相続が面倒になるので、子供ができた人とは結婚できませんってさ。そつちが本音だな」
「あ、そこですか」
そうだよね。決定打はそこだよね。
もしかして初めて産科へ通院した時から調べられていたのだろうか。
調べられていたなんて気が付かなかった。
少しだけぞっとする。
「真理愛さんの独断だけでは断れなかっただろうから、横川家の総意なんだろう」
会長と横川家で少し揉めたらしい。
そりゃそうだろう。揉めないほうがおかしい。
「まぁ、親父も知らなかったのだからある意味被害者ってことで、なんとかおさまったがな」
ため息をつく海斗さんを見る限り、そこまで持っていくのに苦労したのだろう。
海斗さんは私を妊娠させたことで会長から激怒されたらしいが、海斗さんの絶縁の意思を聞くと会長は顔色を変えたという。
「で、結論から言うと……」
「はい」
そこが一番肝心だ。
あの会長のことだから、私が妊娠していたとしても堕ろせと言うかもしれない。
認知させないかもしれない。
そして、次にまた新しいお見合い話を持ってきてもおかしくない。
「認めてくれたぞ。俺たちの結婚」
「えぇっ!? 本当ですか!?」
驚いて声が大きくなる。
あの会長が認めた!?
海斗さんも嬉しそうに大きく頷いた。しかし、そこでハッとする。
「あ……、でもまさか絶縁したからとか……?」
「いいや。俺は社長のまま、花澄も秘書のままだ」
「秘書のまま? ということは、辞めなくて良いんですか?」
しかし、もう退職届は出してある。
だが、海斗さんはそれを受理していなかったらしい。
私は休職扱いになっているようだ。
「そうなんですね……。ありがとうございます」
また海斗さんと働けることが嬉しい。
「あの、でもならどうして認めてくれたんですか? やっぱり子供ができたから?」
あの会長がすんなり認めてくれただなんて驚きだ。
渋々認めたのだろうか……?
すると、海斗さんはやや気まずそうに言った。
「それが、横川から断られて意気消沈していたところに、お袋が親父に激怒したんだ」
「お母さん……ですか?」
そういえば、海斗さんのお母さんは一度も見たことがない。
会長夫人、どんな人なんだろう。