溺愛社長とお菓子のような甘い恋を
「お袋は今回の騒動、一切知らなかったらしい」
「えっ」
一切!?
それはそれで驚きだ。
しかし、それがお母さんの逆鱗に触れたのだという。
「急なお見合いにおかしいなと思っていたらしいけど、横川家や俺の話を聞いて、お袋が親父にブチギレた」
「ブチギレ……」
海斗さんの話によると、お母さんは海斗さんと私の中を無理矢理切り裂いてまで、後ろ盾を得ようとした会長に激しく怒ったという。
その理由が……。
「お袋も後ろ盾がない、一般の家の出だったんだ」
「えぇっ!?」
「俺も知らなかったんだけどな。お袋の両親は俺が生まれる前にはとっくに亡くなっていたし」
どうやら、お母さんと会長は実は社内恋愛。もともとお母さんは社内で一般事務として働いていたらしい。
会長がお母さんに一目惚れ。猛アタックの末、結婚に至ったのだという。
「そうだったんですか……、なんか意外……」
てっきり会長も政略結婚だったのかなとか思っていたから。
「だから、余計にお袋がキレたんだ」
お母さんは、『息子の結婚相手に後ろ盾を求めるなら、何もなかった私は、さぞかしあなたの足かせだったんでしょうね』と激しく怒り、離婚騒動まで発展していたという。
お母さんの怒りはかなりのもののようだ。
会長は「そういうことではない」と慌てて否定していたが、お母さんは当然納得せず……。
「お母さんにとっては、自分を否定されたと同じに感じたんですね」
「まぁ、そういうことだ。お袋にとっては、愛し合って結婚した相手が、息子には後ろ盾となれる家柄の嫁を求めたのはかなりショックだったんだろうな」
だよね。お母さんの気持ちを想像すると可哀想でならない。
「良い家柄ではなかった自分との結婚生活に親父が思うところがあったから、息子に無理やりお見合いをやらせ、恋人との仲を引き裂いてまで、家柄のある人と結婚させようとしたのではないか……。まぁそう思う、お袋の気持ちはよくわかる」
「ですね」
私も頷いた。
お母さんは現在、家を出てホテル暮らしをしているらしい。
つまり別居状態だ。
「あぁ見えて、親父はお袋が一番だからな。離婚だけは勘弁してくれと半泣きで懇願していたよ」
嘘でしょ、あの会長が!? お母さんに出ていかれたことが、相当堪えたんだろうな……。
「……なんか会長が可哀そうになってきました」
「自業自得だな。散々、周りを振り回したんだから」
海斗さんはザマァミロと鼻を鳴らした。
「お袋が俺と花澄との仲を認め、今後一切こういうことをしないのなら、離婚するのだけは止めてあげると言っていた。それに親父はしぶしぶ同意したんだ」
お母さん、相当なお怒りだったのね。
でも、お母さんの後押しがあって認められたんだから本当に感謝しかない。
「お袋は子供のことは凄く喜んでいた。でも、親父に抱かせるかは要検討だな」
海斗さんは意地悪くニヤッと笑った。
そして、そっと私のお腹に手を当てる。
「性別はわかったか?」
「いえ、まだ。どちらがいいですか?」
「どっちでもいい。元気に生まれてさえくれれば」
「そうですね」
男の子でも女の子でもどちらでも構わない。
元気に生まれてきてくれれば。
そう願うばかりだ。